「あれは、朕への当てつけか?」皇室スキャンダルを描くNHK大河『光る君へ』脚本家・大石静の覚悟
吉高由里子主演の大河ドラマ『光る君へ』(NHK)。8月25日に放送された第32回では一条天皇に認められたまひろ(吉高)がいよいよ宮中に上がり、『源氏物語』の執筆に取り掛かる。 【写真あり】吉高由里子が大河ドラマ終わりに結婚も…「”尾上松也”似イケメン恋人」の正体 そんな中、『源氏物語』誕生秘話が明らかになり、大きな注目を集めている。 「『源氏物語』は、平安中期に紫式部によって書かれた世界最古といわれる長篇恋愛小説。谷崎潤一郎や瀬戸内寂聴といった名だたる作家が現代語訳に挑んでおり、夜這いや“寝取られ”といったショッキングなシーンも度々登場しています。そのモデルが、今回の大河ドラマでは、一条天皇(塩野瑛久)と亡くなった皇后・定子(高畑充希)。いってみれば、今上天皇のスキャンダルを描いた作品であることが明らかになり、視聴者の間でも衝撃が走っています」(制作会社プロデューサー) 『源氏物語』の一帖「桐壺」では、帝に深く愛されている桐壺更衣が女御たちに嫉妬され、病の末に亡くなり、深く悲しむ帝の心情が描かれている。その帝の桐壺更衣への思いが、皇后・定子に対する一条天皇の心情そのもの。 実際に第31話の放送では、一条天皇の生身の姿を語る道長に、熱心に耳を傾けるまひろの姿が描かれている。さらに初めて物語を読んだ帝が 「あれは、朕への当てつけか?」 と道長に問い詰めるシーンも登場。こうした点からも、一条天皇と定子がモデルであることは紛れもない事実である。 まひろの筆は、冴え渡る。中宮・定子の華やかなお姿だけを人々の心に残したいという思いから『枕草子』を書いた清少納言(ファーストサマーウイカ)とは対象的に、紫式部は二人の“影の部分”に光をあてることで人間“帝”を見事に描いてみせる。この筆力こそ、千年の時を超え、我々現代人の心を鷲掴みにして離さない。 しかもこの物語は単なる皇室のスキャンダラスな官能小説ではない。 『源氏物語』を初めて読んだ一条天皇は 「あれは、朕への当てつけか?」 と問い詰めるも、 「唐の故事や仏の教え、我が国の歴史をさりげなく取り入れておるところなぞ、書き手の博学ぶりが無双に思えた。その女にまた会ってみたいものだ」 と言わしめるのだから、“紫式部(まひろ)恐るべし”と言わざるを得ない。 だが、この一件に誰よりも驚いているのは、柄本佑演じる藤原道長ではないか。 「一条天皇の寵愛を入内させた娘・彰子(見上愛)に向くように仕向けたい道長は、安倍晴明(ユースケ・サンタマリア)に勧められ、まひろに『枕草子』を超える物語を書くように迫る。しかし道長もまひろの描く物語が、これほどたやすく一条天皇の心を掴んでしまうとは思ってもみなかったはず。 第32話では、無心で物語を書くまひろの姿を見て『俺の惚れた女はこういう女だったのか』と呟く。このシーンこそ、道長の複雑な胸の内を表す印象的な場面となりました」(前出・プロデューサー) 作家と編集者(プロデューサー)の間柄になった、まひろと道長。 「人生最後の賭けだと思って、一か八かで(この仕事を)お引き受けしました」 「平安時代のセックス&バイオレンスを描きたい」 脚本を手掛ける大石静氏は、そう今作への決意を記者会見で語っている。 「第10話『月夜の陰謀』で描かれた二人の密会では、道長のバックハグからの長い口づけ。一度は何もかも捨てる覚悟であることを伝える道長。しかし思いは通じ合ったものの、身分の違いから共に生きることを諦める二人。 その後まひろは藤原宣孝の妻になり、もはや二人が再び逢瀬を重ねるなどあり得ない。そう思っていた矢先、焼け木杭に火がつき事もあろうにまひろは道長の子供を身籠る。この展開を、一体誰が予想することができたでしょうか」(制作会社ディレクター) このまさかの展開に、制作スタッフの覚悟のようなものを感じたのは私だけではあるまい。 幼き日々に出会い、ツインソウルのように絡み合って来たまひろと道長。二人の恋の行方が、脚本家・大石静氏が手掛ける“大石源氏”にどんな影響を及ぼすのか。千年の時を超え、今新たな『源氏物語』が始まろうとしている――。 取材・文:島右近(放送作家・映像プロデューサー)
FRIDAYデジタル