【霞む最終処分】(13)第2部「変わりゆく古里」 住民の思い伝承の場を 最終処分後整備求める
東京電力福島第1原発事故に伴う中間貯蔵施設の用地となった福島県双葉町郡山地区の歴史を伝える冊子がある。「思い出写真集」と名付けられ、東日本大震災と原発事故発生前の地域の様子が記録されている。にぎわう郡山海岸、正八幡(しょうはちまん)神社で盆踊りを楽しむ人々…。約100枚の写真が掲載された。ページをめくると、地区内で暮らしてきた住民の息遣いが聞こえてくる。 2023(令和5)年3月に完成し、地区の全世帯や町役場などに配られた。手に取った正八幡神社氏子総代の大須賀義幸(80)は「子や孫が冊子を見て歴史を語り継いでほしい」と期待を寄せる。 ◇ ◇ 「地区の営みを後世に伝えなければならない。記念誌を作れないか」。冊子の作成は森秀樹(73)ら行政区の役員が中心となって発案した。5年ほど前に町職員に相談し、環境省の協力を受けて準備を進めた。県内外に避難している住民に連絡を取り、写真を提供してもらった。
収集作業に奔走する中で、森はあらためて古里に思いをはせた。郡山地区で生まれ育ち、小高工高を卒業後、双葉地方広域消防本部の消防士として37年間、地域の安全安心を守ってきた。20代で地区内に自宅を建て、妻と子ども2人と穏やかな日々を過ごした。 原発事故発生時は町の民生委員を務めていた。川俣町や埼玉県など県内外を転々とした。避難生活が長引く中で、中間貯蔵施設の建設も決まり、帰還するのは難しいと悟った。2014(平成26)年にいわき市に自宅を再建。古里の土地に愛着はあったが、「中間貯蔵施設ができることで、復興が進むのならやむを得ない」と悩んだ結果、手放すと決めた。 2022年8月、避難指示が解除された町内の特定復興再生拠点区域(復興拠点)内にも居を構えた。郡山地区が見える場所だ。「やっぱり古里の空気は心地良いな」とほほ笑む。 ◇ ◇ 法律で定められた除染廃棄物の県外最終処分の期限は2045年3月。自らが存命かどうかは定かではない。それでも、子や孫の世代が郡山地区で心豊かに暮らし、にぎわいを取り戻すためには国の施策が欠かせないと訴える。
最終処分後の土地活用の行方も気がかりだ。中間貯蔵施設建設や最終処分に向けた取り組みを伝承できる施設の整備を求める。「将来、土地を提供した住民の苦悩や復興への願いが後世に伝わる地になってほしい」。冊子を見つめ、住民が再び強い絆で結ばれる古里の未来を思い描く。(敬称略)