“脱ビッグテック”の狼煙 OSSコラボレーション基盤「Nextcloud」が日本で本格展開
独Nextcloudは、オープンソースのコラボレーション基盤「Nextcloud Hub」の最新版において、生成AIアシスタントの日本語対応を発表した。これに合わせて、日本市場へのアプローチを本格化していくという。 【もっと写真を見る】
独Nextcloudは、2024年10月9日、オープンソースのコラボレーション基盤「Nextcloud Hub」の最新版において、生成AIアシスタントの日本語対応を発表した。これに合わせて、日本市場へのアプローチを本格化していくという。 Nextcloud Hubは、“ビッグテックからデータを取り戻す”ことをコンセプトとする、オンプレミスやプライベートクラウドで運用できるコラボレーション基盤(サーバーソフトウェア)。自社環境にオンラインストレージを構築できるファイルの共有機能を中核に、コミュニケーションやグループウェアの機能も備え、セキュリティ指針に応じたデータの自己管理と円滑なデータ共有を両立できるのが特徴だ。 日本ではこれまで、教育や行政、病院など、セキュリティやコンプライアンス要件が厳しい業界で導入されてきた。 Nextcloudの創業者 兼 CEOであるフランク・カーリチェック(Frank Karlitschek)氏は、「私たちは、個人や組織の情報を一握りの企業に管理されることを望んでいるのだろうか。こうした権力の集中は、プライバシーとセキュリティに重大なリスクをもたらす。Nextcloudのミッションは、『ビッグテックからコントロールを取り戻す方法を提供する』ことだ」と語る。 デジタル主権を推進するには「卓越したオープンソースソフトウェア」が必要 現在欧州を中心として、個人や組織、政府が、所有するデータを自身でコントロールする権利を持つべきという「デジタル主権」の考え方が広がっている。 カーリチェック氏は、「データとコンピューティングがその社会自身のコントロール下にない場合、事実上すべてが監視され、データを所有する海外企業が収益化してしまう。そして、私たちのコミュニケーションが、コントロールがおよばないシステムを経由するならば、そのコミュニケーションは信頼できないものになる」と強調する。 また、データは今日のビジネスにおいて欠かせないもので、「経済をけん引する新しい石油」(カーリチェック氏)であるという。そのデータを自国の企業ではなく、一握りのグローバル大手ハイテク企業が管理している状況であり、そのハイテク企業には自国ではなく企業の属する国のルールが適用される。 カーリチェック氏は、この課題を解決するのが「卓越したオープンソースソフトウェア」だとし、オープンソースのみがユーザーによるコントロールが可能であると強調する。一方で、「オープンソースには、既存の大手ハイテク企業と同等か、それ以上の性能が求められる」と付け加える。 目指すは大手ハイテク企業同様のプラットフォーム、生成AIアシスタントの日本語対応を機に本格展開 そんなNextcloudが提供するのが、データを安全に管理しつつ、チームが効率的に共同作業するための機能を揃えたオープンソースのプラットフォームである「Nextcloud Hub」である。 安全なファイル共有のための「Nextcloud Files」を始め、通話やチャット、ビデオ会議でのシームレスなコミュニケーションを提供する「Nextcloud Talk」、カレンダーや連絡先、メールを管理するための「Nextcloud Groupware」、リアルタイムな共同文章管理を提供する「Nextcloud Office」などを揃えている。 環境に応じて、プラグインで機能を拡張でき、既存のファイルストレージ(SMB・CIFSなど)としても利用可能。また、LDAPやActiveDirectoryとも連携できる。 このプラットフォームを大手ハイテク企業と同等に機能拡充していくのに加えて、「OSSこそUIが重要」という考えで、使い勝手にもこだわる。最新版においても、入力フィールドやボタン、リンクなどをコンパクトにするなど、全体的なデザイン改善を進めている。 生成AI機能についても、データのコントロールを手放すことがないよう、すべてオープンソースで構築されている。「Nextcloud Assistant」は、データを社外に漏らすことなく自社サーバーでホスティングされる生成AIアシスタントであり、Nextcloud Hub内に組み込まれる。 業務を途切れさせないようシームレスに活用することができ、例えば、Nextcloud Hub内のファイルを参照して文章を生成したり、ファイルに関する質問に答えたり、保存された音声を基にテキストを書き起こしたりと、バックグラウンドで業務をサポートする。 Nextcloud Assistantは、様々な大規模言語モデル(LLM)に対応するが、今回新たに国産のオープンなLLMである「Fugaku-LLM」をサポート。日本語処理での生成AI活用が可能になったのに合わせて、日本をメインターゲットの一国としてアプローチを強化していく。 カーリチェック氏は、「日本の公共領域と民間企業の双方に理想的なソリューションとして“独自のポジションを確立”する、大手ハイテク企業に代わる強固な選択肢として、現地の規制(日本の個人情報保護法)も遵守しつつユーザーデータの保護を最優先にする」と語る。 日本の企業導入を支えるSler、OSSであることを強みに独自ポジションの確立へ Nextcloud Hubを導入・運用するうえでは、サーバー構築などの知見が求められるため、多くの組織ではSlerなどによるサポートも必要となる。特に、プラチナパートナーとして2017年からNextcloudと提携するスタイルズは、企業向けエディションの販売、日本語での保守サポート、構築などを担う。有償の企業向けエディションである「Nextcloud Enterprise」は、企業向け機能やNextcloudおよびスタイルズによる保守サポートが提供される。 これまでスタイルズが導入を手掛けた企業・組織の数は、大学・研究機関を中心に80組織に上る。同社の⽮野哲朗氏は、「サービス(SaaS)ではないため、ユーザーの環境に合わせて導入できるのがNextcloudの一番の強み」と説明する。 例えば、明治大学や北海道大学においては、3万人規模でのNextcloud Hubの利用環境を構築しており、その他にもオープンソースの柔軟性と透明性を評価する行政や建設業における導入も支援しているという。 ストレージ領域に強みを持つエクサ(JFEスチールから分社して、日本IBMが資本参加することで生まれたSler)は、Nextcloud Hubと日本IBMのストレージ製品で、九州大学の研究データ管理システム「QRDM」を構築している。 同大学は、Nextcloudによって、直観的で使いやすく、様々なデバイスに対応するデータ共有環境を実現。Nextcloudは、NII(国立情報学研究所)で正式にサポートされているため、研究データ基盤ともスムーズに連携する。また、IBMストレージのEasy Tier機能によるデータ最適配置でコストを削減、その他にも、IBM Storage ScaleのAFM機能で、キャンパス間の非同期コピーによる災害復旧(DR)対策を、テープライブラリの導入によって、長期データ保全とランサムウェア対策を実現しているという。 文● 福澤陽介/TECH.ASCII.jp