村上春樹、街で見かけた小澤征爾さんに驚いた過去「初対面の相手でも、とにかく誰にでもすぐに話しかけちゃうんです」「とても人なつっこい人」
作家・村上春樹さんがディスクジョッキーをつとめるTOKYO FMのラジオ番組「村上RADIO」(毎月最終日曜 19:00~19:55)。4月29日(月・祝)15時00分~16時50分は、特別番組「村上RADIO特別編~小澤征爾さんの遺した音楽を追って」をオンエア。 今年2月に逝去した世界的指揮者小澤征爾さんと親交が深かった村上さんが、小澤を偲んで、自宅から持参したレコードをかけながら、良き音楽を求め続けた小澤の足跡を辿りました。 この記事では、小澤さんの人柄がわかるエピソードを語ったパートを紹介します。
◆小澤征爾指揮/水戸室内管弦楽団「ベートーヴェン:ピアノ協奏曲 第2番 変ロ長調 作品19 第3楽章:Rondo、Molto allegro」
征爾さんは協奏曲の演奏に定評があり、多くの器楽奏者は彼と組んで協奏曲を演奏することを好みました。小澤さんはとても耳がいいし、ソリストの演奏に臨機応変に細かく合わせていくのが巧みです。いや、合わせるというだけでなくて、相手の「こういう音楽をつくっていきたい」というヴィジョンを察知して、そこに積極的に参加していきます。でも決して出しゃばりはしない。その辺の呼吸の具合が見事なんです。 このアルゲリッチとの演奏、僕も実際に水戸で聴いていましたが、実に素晴らしい出来でした。ベートーヴェン「ピアノ協奏曲 第2番 変ロ長調」、ここでは第三楽章だけおかけしますが、まずアルゲリッチのピアノがどきっとするくらい速いテンポで、率直きわまりなく入り込んできます。見事な切れ込みです。迫力十分、聴いていて「これはすごい」と思わず身震いがするんだけど、それに対する小澤さんの対応がまた素晴らしい。すっと受けに回って、ピアノ演奏に対する思慮深く細(こま)やかなバックグラウンドを提供していきます。主役はあくまでピアノ、でも指揮者は自分がサポート役であることを心から愉しんでいるみたいです。その姿勢に、音楽に対する慈しみがあふれています。 聴いてください。マルタ・アルゲリッチのピアノ、水戸室内管弦楽団、2019年、水戸芸術館でのライブ録音です。