中国政府系グループによる「史上最大の富の移転」...トランプ次期政権の対抗策は?
<大規模な産業知的財産(IP)の窃取を繰り返す中国からのサイバー攻撃。「トランプ2.0」時代には、サイバー空間でも米中の戦いが激化するのは必至だろう>【クマル・リテシュ(英MI6元幹部、サイバーセキュリティ会社CYFIRMA創設者)】
2025年1月20日、ドナルド・トランプ前大統領が、第47代の大統領に就任する。「トランプ2.0」が発足するわけだが、本稿では、私たちがトランプ次期政権から何を期待でき、そしてサイバー領域にどんな影響を及ぼすのか見ていきたい。 【グラフ】日本を標的にする「サイバー攻撃者」ランキング…2位は中国政府系グループ まずひとつはっきりしていることは、中国が焦点になるということだろう。すでにアメリカの政治家たちの間でもサイバーセキュリティは超党派で重要視されており、中国政府に対する懐疑論につながっているが、トランプ氏が大統領選でも中国との貿易戦争を加速させると主張してきたことで、アメリカ人はサイバースパイ活動が激化することを覚悟しておくべきだ。 中国のハッカーは最近、世界各地で通信分野を標的にしてスパイ活動を実施している。中国は紛争が起きた時に備えて、重要なインフラに対する攻撃を繰り広げているのだ。台湾やフィリピンの海域をめぐる紛争が勃発した場合に備えて、中国が米国の重要インフラを麻痺させる態勢を整えようとしているのではないかと懸念している専門家も少なくない。この動きは当社の調査でも把握している。 中国政府が支援している可能性のある政府系アクターとしては、例えば「Volt Typhoon」がいる。このグループは少なくとも過去2年にわたってキャンペーンを行っており、特に通信業界や情報技術業界、製造業などさまざまな分野の複数の分野への攻撃を行っている。 ■中国政府系グループによる「史上最大の富の移転」 2024年、アングロサクソン系の英語圏5カ国による機密情報共有の枠組み「ファイブ・アイズ」は、「Volt Typhoon」と、中国がAIを使いながらハッキング攻撃を繰り広げていることに対して警告を発した。中国のハッカーは主に、防衛産業基盤を重点的にターゲットにし、例えば、国防総省と契約している企業のネットワークを1年間で20回も侵害することに成功している。もっとも、それ以外にも多くの標的に対して侵入を成功させており、おそらく多くが未検出のままだと考えられる。 私が運営するCYFIRMAのレポートでも分析したことがあるが、中国政府系サイバー攻撃グループは大規模な産業知的財産(IP)を窃取するオペレーションを実行しており、多くの人がこの動きを「史上最大の富の移転」とすら呼んでいる。 「トランプ2.0」により、現実に知的財産がアメリカから中国に渡るのを減らし、アメリカが対中国の関税を大幅に引き上げることになれば、中国政府はサイバースパイ活動を活発化させ、サイバー攻撃という水面下の取り組みを倍増させる可能性が高い。そもそも中国はサイバー攻撃を国家運営や統治の手段として利用する国として知られており、すべての主要国を合わせても、中国ほどの大規模なハッキング作戦を展開している勢力はない。 特に、ハイテクなどをはじめとする中国政府が力を入れている開発分野に該当する業界は、自分たちの優位を保つために、新しい脅威を継続的に監視して得られる予見的なリスク情報を使い、差し迫った攻撃やリスクを回避するといった対策が求められる。例えば、外部の脅威情勢管理プラットフォームといった包括的なソリューションが急務である。 ■サイバーセキュリティが国家安全保障と経済政策の要に トランプ氏はサイバー犯罪問題に対応する企業などから支持を得ていると報じられている。マイクロソフトは、国家支援型のサイバー攻撃が続く昨今、ロシアや中国、イランからのサイバー攻撃に対してより厳しい対応を求めている。これは、米経済の主要な原動力となっている他の多くの大手テクノロジー企業にも共通する意見だ。トランプ氏は大規模なサイバー攻撃事案が発覚し、株式市場などに大きな影響が出る場合、政権として強力に反応する可能性がある。 「トランプ2.0」では、サイバーセキュリティの重要性に対する超党派の認識を基に、重要インフラの防御を強化し、官民の協力を奨励し、国家が支援するサイバー攻撃グループへの対応を強化する政策を実施する可能性がある。サイバーセキュリティが国家安全保障と経済政策の両方の要となるだろう。