あるスペシャリストの重圧【山本萩子の6-4-3を待ちわびて】第113回
スペシャリストというのは、とても厳しいポジション(と言っていいかわかりませんが)だと思います。たとえばピンチの場面でワンポイントで出てきたリリーフは、ヒットを打たれてしまった場合も、次の打者で挽回する間もなく交代となります。 バントを決めて当然、といった雰囲気も同じです。ムーチョ(中村悠平の愛称)選手はバントが上手で、「決めて当たり前」と思われているようですが、それも選手にとって重圧になるでしょう。10回の打席で4本ヒットを打てば首位打者になれる野球というスポーツで、10割の成功を求められるバントは、とても難しいプレーだと思います。 「この選手なら絶対に成功させる」といったイメージは、長い時間をかけて選手自身が築き上げたものですが、1回でも失敗すると、その失敗のイメージが強く残ります。それを払拭し、再び信頼を獲得するのは大変なことでしょうね。 バントや盗塁が予想される場面では、間違いなく守備も警戒を強めます。そんな中で決められるのは、本当にすごいことだと思います。アレックス・ラミレスさんがDeNAの監督時代に口にした「明日は違う日」という名言がありますが、スペシャリストは「明日がないかもしれない」という思いで戦っているかもしれません。 先ほど紹介した岩田選手の牽制死は、あくまで攻めようとした結果ですし、試合の失敗は試合で取り返すしかありません。次のチャンスでは盗塁もそうですが、素晴らしい走塁を見たいです。その時の走塁には、どれだけの思いが込められているのでしょう。次に岩田選手がいい走塁を見せた時は、村上宗隆選手のホームランと同じくらい、岩田選手に大きな拍手を送りたいと思います。 試合の要所で登場するスペシャリストの活躍に注目するのはもちろん、もし失敗してしまっても、次の機会には大きな拍手と声援で背中を押したいと思います。 それでは、また来週。 ★山本萩子(やまもと・しゅうこ)1996年10月2日生まれ、神奈川県出身。フリーキャスター。野球好き一家に育ち、気がつけば野球フリークに。2019年から5年間、『ワースポ×MLB』(NHK BS)のキャスターを務めた。愛猫の名前はバレンティン 構成/キンマサタカ 撮影/栗山秀作