人的往来で中ロを天秤にかける北朝鮮の思惑、北朝鮮の「中国離れ」に習近平はまだイラついている
渡航規制は政治的な理由だと推察されるが、期待していた中国人のインバウンドがまったく回復せず、焦ったタイ政府は2023年9月に中国人向けのビザ免除を打ち出し、中国政府も事実上の規制を解いたとみられる。 また中国政府は2024年の春節時期に、なぜかモルディブへの旅行を推奨している。これらには、習近平政権の肝いり政策「一帯一路」が深く関係しているとの専門家の見立てもある。 しかし、1100万人も渡航していたタイ旅行を規制しても大きな不満はなく、影響も限定的だったようだ。それだけ、今は中国の海外旅行需要が弱い証左だと言える。
だから、中国政府にとっては、北朝鮮への往来再開の利用価値は低く、腰が重くなっているのだろうと旅行関係者らは考えているようだ。 ロシアは2024年2月に、北朝鮮へ観光ツアーを送り込んだ。ロシアに北朝鮮観光再開1号で先を越され、観光・往来規制を継続させる状況が続くと、北朝鮮はますます「ロシア優先」を加速させるのではないだろうか。 それは同時に中国とロシアを比較してロシアを優先したり、中国の優先度を下げる可能性が今後もありそうだ。
■「往来が再開されなくても仕方がない」 権威主義国である北朝鮮、中国、ロシアはそれぞれが利己的な国益を最初に考える。それぞれが適当な利益でくっついたり、離れたりを繰り返しているのが現実だ。 これまで北朝鮮への外国人旅行全体の95%を超える、年間20万人以上の中国人が、北朝鮮を旅行していたと推測される。中国政府は、大量の観光客という経済的な武器を用いて、再び北朝鮮をハンドリングしようとは考えていないのか。
ロシアに負けじと、中国も制裁を緩め、観光・往来させる決断をしないのかと、中国朝鮮族の貿易商に尋ねてみると、 「おそらく、ロシアに対抗して往来再開を判断する可能性は低い。中国政府は日本など西側の民主主義国家とは、まったく違う論理で判断する。4月末に再開されれば嬉しいが、再開されなくても仕方ない」 もはや、旅行会社や貿易商などの中朝関係者たちは、観光・往来再開に大した期待もしていないという印象を受ける。
中野 鷹 :中国・北朝鮮ウォッチャー