バナナなどのにおい物質 脳細胞の働きすスメル効果 福島医大など研究チーム発表 記憶や運動機能改善
福島医大や理化学研究所などの研究チームは、バナナなどに含まれるにおいの基となる化学物質のフェニル酢酸を用いて哺乳類の脳神経細胞の働きを促す手法を確立した。現在はマウスによる実験段階だが、将来的には人体への応用も期待される。実現すれば、加齢や病気に伴う物忘れの改善や運動機能の回復につながるという。研究チームは「夢のある研究。必ず実用化させたい」としている。福島医大が27日に発表した。 研究チームはこれまで、昆虫が持つ香りを感知する受容体がフェニル酢酸に反応して神経細胞を活性化させる性質に着目し、フェニル酢酸が哺乳類の神経細胞を活発化させることを突き止めていた。ただし哺乳類の脳には「血液脳関門」と呼ばれる組織が妨げとなり、血液から脳組織にフェニル酢酸を十分に届けることが難しかった。 研究チームは数年間にわたり試行錯誤を重ねた。行き着いたのはフェニル酢酸の構造を変えるアイデアだった。関門を通りやすいように変更でき、血管に注射する方法を考案した。
神経細胞の活性化のイメージは【図】の通り。マウスの脳内にある記憶をつかさどる神経細胞に物質を投与すると、血液から脳組織に移行し、受容体を刺激して神経細胞の活性化につながった。 新たな手法の精度はラットを使った実験で確認した。薬剤で運動量を増やし、物質を投与したところ、運動機能を抑制する神経細胞の活性化に成功した。 研究成果は審査を経て米国の科学誌コミュニケーションズバイオロジーに掲載された。研究チームには福島医大生体機能研究部門の小林和人教授(63)、井口善生助教(47)らが所属し、スイスのローザンヌ大なども参画している。 小林教授は記憶や運動障害、うつ病などのモデルマウスを使った研究を継続し、低下した機能が回復するかを分析するとしている。「狙った神経細胞に受容体を発現させ、フェニル酢酸を投与できれば、記憶や運動などの機能の増強につながる。人体への応用まで時間はかかるが、決して夢物語ではない」としている。