日東駒専が難関校に?大学受験で「中堅校の受験者」がレベルアップしたワケ
そこで、掲げられたのが地方創生でした。各地域がそれぞれの持ち味、特徴を活かして自立的で継続できる社会を目標に、長期ビジョンが作られたのです。こうした背景を元に生まれたのが「大学入学定員厳格化」でした。 大都市圏、特に東京圏に大量の学生が流れてしまうことを避けようというもので、定員数を上回る学生を入学させた大学にペナルティを与えようという議論が起こったのです。ペナルティの具体的な策として考えられたのが、私立大学に対する私学助成金交付の見直しでした。 大学入試は複数の大学を受験することができるため、大学側は入学手続きの締め切り日まで、実際の入学者数を把握することはできません。合格を出しても他大学に流れる学生もいますから、私立大学ではそれを見越して定員よりも多めに合格を出すのが慣例でした。 国はここに目をつけ、定員はきちんと守ってくださいよという通達を出したのです。その大学の収容定員によって少し基準値が変わりますが、例えば、収容定員8000人以上の大学が1.1倍以上の入学者を入れた場合、ペナルティとして助成金を全て打ち切りますという具合です。 助成金の全額カットは大学にとっては大きな痛手となりますから、これは守るしかありません。通達は2015年に出され、ペナルティは2018年度にかけて段階的に行うようになっていました。 そのため、東京のマンモス校では定員以上の入学者が出ないよう、合格者数を絞る取り組みが始まりました。そして、人気の大学ほど入りにくい状況が生まれていったのです。例えば、早稲田大学の2016年度からの入学者数の変化を見ると、2017年度、2018年度の2年間で約700人も減りました。 アンテナpoint.少子化ではありますが、都市部の人気大学は昔と比べて合格を出す数が減ったため、入りにくくなったとも言えます。
● 「チャレンジを避けて手堅く」 受験生の間に生まれた安全志向 定員がこれだけ絞られるのならば、チャレンジ校は避けようという思いが働いたのか、チャレンジ校を受けていたような層が、堅実路線を選ぶようになり、今までMARCH(明治大学・青山学院大学・立教大学・中央大学・法政大学)に入れた偏差値帯の子が、日東駒専(日本大学・東洋大学・駒澤大学・専修大学)でも合格が難しいという現象がおきました。 そしてもう一つ、チャレンジ出願の減少を加速させた出来事がありました。それが、大学入試改革です。 長らく大学入試で活用されてきた大学入試センター試験(通称センター試験)が2020年度入試までで終わり、2021年度からは大学入学共通テスト(通称共通テスト)へと変更されることが決まっていました。 共通テストは新しい時代の教育に相応しい入試のあり方の実現を目指して作り出されたもので、センター試験とは問題の問い方、質が変わることが分かっていました。 センター試験が導入された1990年は、第2次ベビーブームの世代が大学入試を迎える年でした。どうやったら効率的に入試を行えるだろうかということが考えられた時代でした。 また、社会を動かすのはマンパワーが中心で、与えられた仕事をいかに正確に、素早くこなせるかなど、社会では処理能力の高さが求められていました。このため、センター試験でも、処理能力を求めるような問い方、作問がされていました。 ところが現在は違います。求められているのは技術との共存です。科学技術の発達により、正確に処理するような単純作業はAIができる時代になりました。 人間に求められるのはそれを元に、課題や問題をいかに解決するかを考える力です。加えて、それを他者に伝える表現力も求められるようになりました。そのため、共通テストでは処理能力の高さではなく、いずれの科目も情報を読みとり、「なぜそうなるのか」を問うような問題となったのです。 アンテナpoint.社会の変化に合わせて入試で求められる力が変わっています。単純作業はAIができる時代、人間にしかできないことは何かが問われる時代です。
宮本さおり