浜辺美波から感じる、“昭和の本格俳優”を思わせる肝っ玉の大きさ【てれびのスキマ】
■伝説の“居眠り”事件 浜辺美波といえば、本人は不本意だろうが忘れられない事件がある。 それは2020年1月11日に放送された「しくじり先生 俺みたいになるな!!」(テレビ朝日系)でのこと。武田真治の“講義”を聴きながら、浜辺はウトウトし始め、本番中に居眠りしてしまったのだ。これには本人も「最低ですよアレは。土下座案件です」(「アベマの時間 ひろなかラジオ 浜辺美波が来たよSP」2020年1月31日テレビ朝日系)と反省。 ちょうど放送後すぐのタイミングで行われた「アリバイ崩し承ります」(2020年テレビ朝日系)制作発表会では、共演者たちにイジられ「あれは反省です。しくじったのは私です」「勉強机と車の中がダメなんです」と語っていた。 とてもチャーミングで微笑ましいが、同時によっぽど忙しいのかと心配になった。が、浜辺がうたた寝している姿は現場でもおなじみの光景のよう。勝村政信からは首がすわっていないという意味で「ソフトネッカー」と称されているという。うたた寝しながら首をグワングワン揺らしているのだと。「びっくりします。体幹の良さったらないですよ。それで、出番で呼ばれると、クッと起きて『私、全く寝ていません』って顔で立ち上がる」と安田顕は笑って証言していた(「ORICON NEWS」2020年1月22日)。 ■神木隆之介との「令和の名コンビ」 そんな浜辺の2023年は凄まじかった。まず1月に主人公・サーラに声をあてた映画「金の国 水の国」が公開されると、3月にはヒロイン・緑川ルリ子を演じた映画「シン・仮面ライダー」も封切り。そして4月から9月には朝ドラ「らんまん」(NHK総合ほか)でヒロイン・寿恵子を演じた。さらに11月にはヒロイン・大石典子に扮した映画「ゴジラ-1.0」も公開。極めつけは大晦日に「第74回NHK紅白歌合戦」(NHK総合ほか)の司会を務める。 国民的特撮シリーズの「ゴジラ」「仮面ライダー」、そして国民的ドラマ枠のヒロインを務め、国民的番組の司会を任されたのだ。しかも「らんまん」と「ゴジラ-1.0」では、ともに神木隆之介とのコンビ。後者の製作総指揮を務めた市川南も完成報告会見で「山口百恵さんと三浦友和さんのコンビが映画を作ったように、令和の名コンビが誕生したなと思います」と昭和の名コンビになぞらえた。 ■“みーちゃん”から“浜辺”に ちなみに世に出たのは「らんまん」のほうが先だが、撮影は「ゴジラ-1.0」が先。「ちょうどゴジラの撮影をしている前後ぐらいに朝ドラの話があった。『これから長い間、ご一緒させていただきますね』と(撮影の)最後にごあいさつして、ここまで仲良くしていただいています」(「ORICON NEWS」2023年9月4日)と浜辺自身が補足した。 神木とは4年前の「屍人荘の殺人」(2019年)にもコンビを組んでおり3度目。まさに名コンビだ。この撮影は特に過酷だったそうで、その経験があるからこそ、「らんまん」の撮影時には「元から信頼度があった」という。ちなみに神木は彼女を「浜辺」と呼ぶ。最初は「みーちゃん」だったが次第に「浜辺」率が高くなったという。同士感があってとてもいい。 ■可憐なヒロインから強烈なキャラクターまで七変化 浜辺は、2011年に第7回「東宝シンデレラ」オーディションでニュージェネレーション賞を受賞し、芸能界入り。同年公開の映画「アリと恋文」で主演デビューを果たす。2015年にはアニメ「あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。」(フジテレビ系)の実写ドラマでヒロイン・めんまを演じ注目を浴びた。 その後も可憐なヒロインというイメージが先行していたが、2018~19年の「賭ケグルイ」(MBS)ではエキセントリックな主人公・蛇喰夢子を熱演し強烈なインパクトを残した。「現場ではモニター前に行かないようにしていました。自分が思っていた以上にひどい顔をしているのを見ちゃうと、その先の撮影で表情を押さえ込んじゃって精一杯できないなあと思ったので」(「映画ナタリー」2018年1月8日)と言うほど振り切った演技をしていた。 「らんまん」での寿恵子が代表的だが、浜辺が演じるヒロインは可憐さはもちろん、同時に強さを感じる。神木は浜辺を「一筋縄じゃいかない、とても芯の強い、とがった役者」と評す。だからこそ、寿恵子の強さを表現でき「逆境にあっても『どうしよう?』じゃなくて、『おぅ!やってやるよ!』っていうような挑戦的な目つきができる」(「あさイチ」2023年8月25日NHK総合)と。前述の通り、「山口百恵・三浦友和コンビ」に喩えられたが、彼女は“昭和の本格俳優”を思わせる肝っ玉の大きさがある。 文=てれびのスキマ 1978年生まれ。テレビっ子。ライター。雑誌やWEBでテレビに関する連載多数。著書に「1989年のテレビっ子」、「タモリ学」など。近著に「全部やれ。日本テレビえげつない勝ち方」 ※『月刊ザテレビジョン』2023年1月号