ラスベガスの夜を走る気分は”まるで日本GP”? 猛烈な時差ボケと戦うF1ドライバーたち。体調管理も重要に
現地時間の土曜日深夜に決勝レースが実施されるという、異例のスケジュールで開催されるF1ラスベガスGP。世界中のレースを転戦しているF1ドライバーにとっては、時差ボケに苦しめられる過酷なスケジュールとなっている。 【リザルト】F1第22戦ラスベガスGP:フリー走行2回目 今シーズンの終盤戦は、6週間で5レースが開催されるという過密日程となっているが、ここまでアメリカ(オースティン)、メキシコ、ブラジルと、ヨーロッパとは時差のあるアメリカ大陸でのレースが続いた。さらに今回のラスベガスGPは同じアメリカ大陸のレースと言えどナイトレースとなっているため、また異なる時間帯での活動を余儀なくされる。そしてその1週間後には、ラスベガスと12時間の時差があるアブダビで最終戦を戦うのだ。 ドライバーたちはプライベートジェットやビジネスクラスでの移動、トレーナーの献身的なサポートにより、できる限りストレスのない環境で過ごしているかもしれないが、それでも100%疲労を取り除いて準備をするのは至難の業と言える。そういう意味では、今季の終盤2レースは近年稀に見るタフなレースになるだろう。 ラスベガスGPのナイトセッションは、日本時間の昼過ぎから夕方にかけて実施される。つまりドライバーにとっては、日本GPの時と同じような感覚を覚えているようだ。レッドブルのマックス・フェルスタッペンはこう話す。 「ここについてしまえばそれほど問題はない。でもそこから12時間の時差があるアブダビに飛ばないといけない。全く違うタイムゾーンになるんだ」 「僕たちは基本的に日本(GPと同様)のタイムスケジュールで動いている。でもそこから全く違った1日になるんだ。理解しかねるよ。とても疲れるし、シーズン終盤にこんなことをしないといけないなんて……あまり意味がないと思う」 最年長の42歳であるアストンマーチンのフェルナンド・アロンソは、このスケジュールには賛同できないものの、ドライバーたちは厳しいカレンダーに対処していくほかないと述べた。 「OKとは言えない、OKではない……でもそういうものなんだ。タフなスポーツであって、サッカーとは違うんだ」 同じくナイトレースであるシンガポールGPなどは、ヨーロッパ時間の昼過ぎのレース開催となるため、ドライバーにとっても楽な週末だ。しかしラスベガスのナイトレースは、前述の通りドライバーとしては日本GPのような感覚……アルピーヌのエステバン・オコンは、この数週間はこれまでで最もタフだったと振り返る。 「シンガポールはヨーロッパ時間のまま、夜に活動する感じだからかなり楽だ。でもここは違う」 「しかもシンガポールより(日付が変わるのが)遅いから、4日間も太陽を見られない。太陽光を浴びて得られるビタミンも不足するし、人体にも良くない」 「いつもオースティン、メキシコ、ブラジルとアメリカ大陸を旅した後、ヨーロッパに戻ってアブダビのタイムゾーンに戻そうとする。今回もヨーロッパに戻ったけど、ブラジル時間で過ごしていた。だから充実した時間は過ごせなかった」 「家族と会ったり、普通の時間を過ごすこともできなかった。別にいいんだけど、準備は大変だし、体調を管理するのはかなりの努力が必要になる。僕はやるべきことをやったから元気だけどね」 「でもこの5週間は変な時間帯での生活だった。だからおそらく、F1に来て以来最もタフだったと言える」 ただ裏を返せば、この時差ボケとの戦いをうまくやれば、他のドライバーに対して優位に立つことができる。メルセデスのジョージ・ラッセルはまさにそのように考えている。 「多くの人たちが疲れているように見えるから、ある意味チャンスだと捉えている。ライバルよりもうまくやれば、それがアドバンテージになる」 ラッセルはそう語る。 「僕は1日1時間だけずらすようにしているんだ。先週の金曜日から体内時計をシフトし始めてから、それを2週間継続し、来週の日曜日までシフトし続けるつもりだ」 「シンガポール、日本の連戦を見ても、今年はちょっと大変だったと思う。時差はそれほどないんだけど、シンガポールはナイトレースだし、日本の方が(日付変更が)早いから、実質8時間の時差があった」 「マイアミからヨーロッパへ、カナダからヨーロッパで、そしてオーストラリアからまた戻って……身体があちこちに移動している。だから間違いなく、来年はもっとそこに集中することになる」 しかもラッセルは、自身の体調を管理する上で生体データにも目を向けている。 「タイムゾーンの乱れから、僕の睡眠中の心拍数はずっと同じ場所にいる時と比べて平均25%高くなっている」 「この夏は同じ場所で2週間過ごしたけど、これはここ3年で最長だった。そしてその時の心拍数が一番低かったんだ」 「冬はいつも低い数値で安定するんだ。転戦が始まるとすぐに心拍数が上がるけど、睡眠時間が減り、回復力が落ちるのは間違いない。色々飛び回っていれば当然だ。それは単なる感覚ではなく、データの裏付けがあるんだ」 またオコンは、自分のことよりもチームスタッフの方が心配だと語る。ドライバーに限らず、タイヤ交換を行なうメカニックも、レース戦略を決断するストラテジストにもミスは許されない。 「正直、ガレージで働いている人たちの方が心配だ」 「チーム全体として自分たちのケアはしているけど、やっぱり僕のことを見てくれている人の方が多い。みんな苦しんでいるのだから、お互いを気遣うことが重要だ」 「僕たちもしっかり準備はしてきた。時差ボケに詳しい人たちも何人もいるからね。トム(クラーク/オコンのフィジオ)は時差ボケの分野で博士号をとっているんだ。だからかなり心強いね」 「でもミーティングで睡魔と格闘して、今にも寝てしまいそうになっている人がいた。やっぱり簡単なことじゃないんだ」
Adam Cooper
【関連記事】
- ■スチュワードの奔走むなしく、ペナルティが決まったサインツJr.。“不可抗力”なアクシデントの餌食となり落胆「F1がいかに改善すべきかを示す例」
- ■マクラーレン、ラスベガスGPに改良版のビームウイングを投入。圧倒的強さのレッドブルの”強み”を奪う、飛躍の一歩に?
- ■角田裕毅、ラスベガス初日はFP2を17番手「パフォーマンスは素晴らしくはないが、集めたデータでポジティブなステップを踏み出せると思う」
- ■F1&ラスベガスGP主催者、初日のFP2が無観客で行なわれた理由を説明。ファンに理解求める「こういうことは起こりうる。ご理解いただけることを願っている」
- ■F1ラスベガスGP初日、スタンドで走行が見られたのは8分だけ……リカルドは胸中複雑「最初はFP2を走る価値を感じなかった」