【ペットボトル飲料大研究】強みや欠点が丸わかり! 絶対王者・伊藤園vs.巨大メーカー「お茶戦争」
〈初日の出とても小さい駅で見た〉 大阪府に住む8歳の小学生が詠んだこんな句が10月、とある俳句コンテストの最高位、文部科学大臣賞を受賞してX(旧ツイッター)上で話題となった。 【ペットボトル茶業界の好調続く!】絶対王者・伊藤園vs.巨大メーカーのお茶戦争「最新勢力図」 世界65ヵ国から約192万句が寄せられたこの日本最大級の賞の名は、「伊藤園お~いお茶新俳句大賞」。入選作品はペットボトル緑茶飲料「お~いお茶」のラベルに掲載される。経済ジャーナリストの高井尚之氏が話す。 「『お~いお茶』は伊藤園の不動の看板商品です。’85年に『缶入り煎茶』として発売され、’89年に『お~いお茶』に名称変更。翌’90年には緑茶飲料として初のペットボトル入りが発売されました。その宣伝戦略の一環として創設された『新俳句大賞』は、’89年の第1回から34年の歴史があります。いまではすっかり定着していますが、消費者が応募した俳句を商品パッケージに掲載するのは、当時としてはかなりユニークなマーケティング戦略だったと言えるでしょう。 かつて、清涼飲料水業界で最も人気だったカテゴリーはコーヒーでした。ところが、缶飲料よりもペットボトル飲料が好まれるようになったこと、そして健康志向の高まりなどの影響で、’17年には緑茶が生産量ベースで1位となった。この先もペットボトル茶の好調は続くでしょう」 「お~いお茶」の累計販売本数は400億本を超えており、緑茶飲料の年間販売実績世界一としてギネス世界記録に登録されている。世界一のペットボトル茶が生み出された背景には、伊藤園の並々ならぬ企業努力があった。 「『お~いお茶』は、世界で初めて発売された″透明な緑茶″なのです。沈殿物を除いたクリアな色にすることで、液体が酸化しにくくなり、味が安定する。棚に陳列されたときの見た目もいいので、消費者は手に取りやすい。こうして『お~いお茶』は業界のリーディング商品としての地位を確立していきました」(マーケットアドバイザーの天野秀夫氏) 良質な茶葉を確保できることも、伊藤園の強みだ。 「茶葉は農作物ですから、供給が安定しないのが課題。そこで、国内の茶葉農家と買い切りで契約したり、耕作放棄地を自治体と協力して一から開墾し、新たな茶畑を作ったりして、品質の高い茶葉を自社工場に安定供給できるようにしたのです」(飲料業界コンサルタントの江沢貴弘氏) 「お~いお茶」は年間販売金額4586億円を誇る緑茶飲料市場でシェア1位を維持しているが、伊藤園が持っている「ペットボトル茶」シェア1位商品は他にもある。 「’02年販売開始の『健康ミネラルむぎ茶』です。健康志向の高まりという追い風を受け、カフェインレスでミネラル豊富な麦茶は、いま伸びているジャンル。’12年には年間426億円だった市場規模が、現在では約4倍の1689億円になっています」(前出・高井氏) 「健康ミネラルむぎ茶」は’22年に累計販売本数が130億を突破。世界で最も販売される麦茶飲料としてギネスに認定された。 最も市場規模の大きい緑茶と、急成長中の麦茶。その双方でトップに立つ伊藤園は、飲料メーカーとしての企業規模が圧倒的に大きいわけではないが、ことペットボトル茶業界においては絶対王者として君臨している。しかし、王者に追随する各社も、手をこまねいているわけではない。 ◆王者打倒のための秘策 「お~いお茶」に対抗するべく、最大手飲料メーカーのサントリーは’04年にあのヒット商品で殴り込みをかけた。 「マーケティングに定評のあるサントリーはまず、緑茶に参入する際の障壁を特定しました。茶葉の安定供給、お茶に関する知識の蓄積、そして味を判断する力の3要素です。そこで、伊藤園のように自社で全てを行うのではなく、世界トップレベルの製茶会社である福寿園に白羽の矢を立て、会心の作を作り出しました。福寿園初代の名前を冠した『伊右衛門』です。このヒットにより、ペットボトル茶業界は伊藤園の完全な一強ではなくなった。年間販売金額553億円のウーロン茶部門でトップシェアの『サントリー烏龍茶』を持っているのも強みです」 「伊右衛門」登場の3年後、今度は日本コカ・コーラが伊藤園への対抗商品を開発した。「綾鷹」である。 「サントリーと同じ手法で、450年の歴史がある京都の老舗製茶会社・上林春松本店とタッグを組みました。綾鷹が画期的だったのは、『お~いお茶』でクリアな緑色に慣れた消費者に、にごりの旨味を認識させたこと。伊藤園が企業努力を重ねて排除したにごりは、急須で入れたお茶の本来の姿だと打ち出し、差別化を図りました。現在では『お~いお茶』、『伊右衛門』に次ぐ、緑茶部門の3位につけています」(同前) 日本コカ・コーラは年間市場規模875億円のブレンド茶部門1位「爽健美茶」や、ウーロン茶部門2位の「煌 烏龍茶」など、各ジャンルに強力な商品を持っている堅実さが強みだ。 各社が緑茶で対抗する中、″穴場″を攻めて影響力を発揮しているのが、大手ビールメーカーのキリンだ。 「玉露の甘みが特徴的な『生茶』は緑茶部門で4位にとどまっていますが、年間市場規模2167億円の紅茶市場で圧倒的ナンバーワンの『午後の紅茶』シリーズを擁する。紅茶は日本茶に比べ、冷たい状態で出すのが非常に難しい飲料です。紅茶にはカフェインとタンニンが含まれるのですが、これらの成分は冷やして置いておくと白く濁ってしまう。『クリームダウン現象』と呼ばれるこの弱点を克服し、商品を透明な状態に保つことのできる『クリアアイスティー製法』を生み出したのがキリンだったのです」(前出・江沢氏) 午後の紅茶シリーズは、「午後の紅茶 アップルティープラス」や「午後の紅茶 おいしい無糖 香るレモン」など、派生商品を多数出すことでブランド力を維持している。 「現在、飲料市場全体の半数が無糖となっていますが、紅茶においては有糖のものが好まれる。午後ティーも、ストレート、ミルク、レモンの主要3商品のうち、もっとも売れているのは甘みの強いミルクなんです」(前出・高井氏) 大手4社が部門別でシェア1位のヒット商品を生み出している中、いまいち存在感を示せていないのが、ブレンド茶部門2位の「十六茶」などを展開するアサヒ飲料だ。 「最も市場規模の大きい緑茶部門で後塵を拝する現状を打開すべく、今年4月に新ブランドの『颯』を打ち出し、CMにはNBA選手の八村塁(25)を起用。7月までは順調な売り上げを見せ、年間売り上げ目標を上方修正しましたが、それ以降、あまりいいニュースを聞かない。おそらく発売当初はトライアルユーザーによって買われていたものの、リピーターを十分に得ることはできていないのでしょう。今後の巻き返しに期待したいところです」(同前) かつて圧倒的な存在感を放っていた伊藤園の牙城が、少しずつ崩れてきた。ペットボトル茶業界の勢力図は、濁りなきクリアな闘いを経て、塗り替えられつつある。 『FRIDAY』2023年12月22日号より
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