はい上がり、つかみ取った「4番ファースト清原」 慶大清原正吾がベストナイン
異例のスラッガーだろう。東京六大学野球の名門、慶大の清原正吾内野手(21)。4年生になった今春のリーグ戦から一塁手のレギュラーをつかみ、4番に座った。父はプロ野球の西武や巨人で活躍した和博さん(56)。記録にも記憶にも残る大打者だった。もっとも正吾選手は中学(慶応普通部)と高校(慶応高)で、それぞれ野球ではなくバレーボール、アメリカンフットボールに打ち込んだ。小学生時代に少年野球をしていたが、少なくとも高校野球未経験ながら東京六大学リーグの雄、慶大でレギュラーを張ること自体が驚きだ。しかも今春、一塁手のベストナインに選ばれた。まだ粗削りとはいえ豊かな資質が夏に磨かれ、大学最後のシーズンで「実りの秋」となって神宮球場を沸かせるか。(時事通信社 小松泰樹) 【写真】東京六大学野球の春季リーグ戦を観戦する清原和博さん=5月8日 ◆3年春にリーグ戦初安打 リーグ戦ではない「神宮デビュー」は1年生だった2021年6月、新人戦に相当する春季フレッシュトーナメントに代打で出て右飛。今のリーグ戦と同様に、スタンドには見守る父の姿があった。堀井哲也監督も当時から、じっくりと視察していた。同年11月の秋季フレッシュトーナメントでは一塁手で先発出場。打線の中軸を打ち、内野安打も。フルスイングには徹し、堀井監督も「振ることが大事。いつか必ずアジャストしてくるでしょう」とみていた。 リーグ戦の初出場は2年生の秋。早慶戦で代打に起用されて右飛に倒れ、「情けない内容で悔しい」と唇をかんだ。3年生の春、法大との開幕戦に「7番一塁」で初めて先発出場。一飛、空振り三振に終わり3打席目に代打を送られた。同カード2回戦も無安打だったが、3回戦で待望の初安打。尾崎完太投手(現セガサミー)の変化球を捉えて三遊間を抜いた。 「全部(の球を)打ちにいくつもりだった」。続く2打席は尾崎、そして同学年で今秋のドラフト上位候補、篠木健太郎投手に空振り三振を喫した。「大学トップレベルの両投手との対戦はいい経験。これをどう生かしていくか」と堀井監督。その後の出場は明大戦の1打席(凡退)だけ。秋はベンチ入りできなかった。それが今春成長した原点となったようで、清原の闘志をかき立てた。 ◆ベンチ入り外れ「トップになるぞ」 最上級生の今春。開幕前はオープン戦で中軸を打って結果を残し、チームの中心選手に。昨秋以降、ひたむきに練習を重ね、ひと冬を越えて技術を高めたことが見て取れる。開幕戦(東大1回戦)の朝、堀井監督にスタメン4番を告げられ「身が引き締まる思いがした。試合を変えられるようなヒットを打ってやろうと思った」。三回に先制の適時二塁打を放って勝利に貢献。試合後、「(昨秋に)ベンチを外れて悔しい思いをしながら、『トップになってやるぞ』と妥協しなかった」と振り返った。堀井監督も「どんな状況でもしっかりと練習をしていた。野球に取り組む姿勢は変わらなかった」と評価。一塁守備も「今は地に足がついたプレーで、安心して見ていられる」と目を細めた。 昨春は来た球を必死で打ちにいく印象だったが、今年は一味違う。「スイングを鋭く、コンパクトに」をテーマに、バットのグリップエンドを少し余らせて握り「強い打球を打つことを意識している」。グリップエンドいっぱいには握らない―。そこは、プロ野球で歴代5位の通算525本塁打、同6位の1530打点をマークした和博さんの現役時代とも重なる。立大と1勝1敗1分けで迎えた4回戦では、強烈なアピールをした。1点を追う三回、1死満塁で左中間へ逆転の2点二塁打。塁上で「やってやったぞ、見たか!」と父がいる観客席を指さした。慶大は3―2で勝利。貴重な勝ち点をもたらす殊勲打となった。 ◆「1号」は秋に持ち越し 清原は「負けん気と根性で全員が踏ん張った」と歓喜。4番打者の重圧について「乗り越えていかないと。プレッシャーを楽しむように」と言い、「勝ち負けは監督のせいにして」とジョークを交え、堀井監督も思わずほほ笑んだ。今春は全13試合に先発出場して、52打数14安打7打点で打率2割6分9厘。長打は二塁打が5本。もう少しで本塁打のフェンス直撃もあった。清原は「ホームランは結果であって、そこを意識せずにやっている」。早慶2回戦では3番を打ったが、今や不動の4番。秋に持ち越す形となったリーグ戦1号も近そうだ。 慶大は今春、6勝6敗1分け、勝ち点3の3位。早慶戦で連敗してライバルチームの胴上げを目の当たりにし、「悔しい。もっともっと成長していかなければ」。主力として臨んだ初めてのシーズン。「この舞台で野球ができたことに感謝したい。優勝を逃したという課題はある。秋に向けて、どうやったら優勝できるかを考えたい」。ベストナインにも「うれしいけれど、まだまだ自分自身には満足していない」と、さらなる精進を誓った。 ◆「できることを全うしたい」 早慶戦の2試合で途中から二塁を守った。明大2回戦では右翼の守備に回った。堀井監督は二塁手との掛け持ちに関し、チーム事情による「苦肉の策」と説明しつつ、「いろいろな可能性を探っていきたい」とも。二塁へのゴロも無難に処理し、「やれることは全てやる。自分ができる全てを全うしたい」と清原。ポジションに対する柔軟性は、バレーボールとアメリカンフットボールで培ったであろうバネやバランス、フットワークなどが生きているのかもしれない。 周囲の関心は、当然ながら卒業後の進路にも及ぶ。今春の開幕戦後、プロを目指すのかについて「一日一日、次(のステージ)のことを考えずにやっていきたい。その結果として、そういうレベルになれればいい」と語っていた。ここ数年、慶大の中心打者は相次いでプロ入りしている。5年目の柳町達選手(ソフトバンク)、3年目の正木智也選手(同)、2年目の萩尾匡也選手(巨人)、ルーキーの広瀬隆太選手(ソフトバンク)。「萩尾さんのようになれたら。寮が一緒だったから、慕っている兄貴のような存在です」。186センチ、90キロの堂々たる体格。力強く、しなやかに神宮で躍動する。