【視点】八重山周辺に空母 離島に不安
八重山住民に対する露骨な威嚇ではないか。中国海軍の空母「遼寧」とミサイル駆逐艦2隻が17日、石垣市の尖閣諸島・魚釣島周辺から与那国島と西表島間の海域へ進み、太平洋へ向かった。 防衛省によると、中国空母による与那国島と西表島間の航行が確認されたのは初めてという。 空母は戦闘機を搭載して他国を攻撃するための艦船だ。空母の航行や接近は、それ自体が周辺国に対する直接的な武力行使を想起させる。 実際に中国の習近平国家主席は「台湾統一」のためなら武力を放棄しないと言明している。中国軍の動きは、地域の平和に対する重大な脅威であり、離島住民の不安は大きい。 中国政府の報道官は空母の航行について「中国の国内法や国際法に合致している」と述べたが、恥知らずの詭弁だ。 中国軍は、8月には初めて軍用機を長崎市の男女群島沖で領空侵犯させた。この軍用機は沖縄周辺でも活動が確認されている。鹿児島県沖でも海軍の測量艦が領海侵入した。 言うまでもなく尖閣諸島周辺では、中国海警局の艦船が複数常駐し、領海侵入と、周辺を航行する日本漁船への操業妨害を繰り返している。 ここへ来て中国軍による日本への挑発行為が激化しているのは、将来的な台湾侵攻に向け、日本をけん制する意図があると考えて間違いない。さらには、折からの自民党総裁選を見据え、次期首相候補たちの対中姿勢を探っているのではないかとの見方がある。 だが中国政府が、日本の首相などを相手にしているとは考えにくい。出方を探るなら、むしろ海の向こうの米大統領選の候補者たちがターゲットだろう。 民主党候補のハリス副大統領、共和党候補のトランプ前大統領の討論会での発言を見ると、トランプ氏はたびたび中国に言及したが、対中関税の引き上げなど、経済的な競争に関する文脈に限られていた。 ハリス氏は対中政策に関する発言がほぼ皆無で、そもそも自前の安全保障政策を持っているかどうかも分からない。 同盟国である日本への挑発行為に対しても、米大統領選の候補者2人からは、現時点で何の発言もない。アジアの平和に対する脅威としての中国に対する認識は、2人とも極めて甘い可能性がある。 一連の挑発行為を通じ、中国もまさに同じ感触を得たことだろう。沖縄周辺での軍事行動に関し、さらに自信を深めたはずだ。 南シナ海では、中国と領有権を争うフィリピンが要衝から撤退し、中国が着々と支配を強化している。次は尖閣諸島周辺で本格的な攻勢が始まるかも知れず、そうなれば八重山住民が最も恐れる、尖閣周辺の南シナ海化が現実のものとなってしまう。 日本はこれまで日米同盟を基軸に中国の脅威に対抗してきた。だが米大統領選を見ていると、対中政策に確たる見識がない人物が超大国の次期リーダーになる恐れも否定できない。自民党総裁選では、米国頼み一辺倒ではない安全保障政策の議論が望まれる。