進歩した造血幹細胞移植 ~移植後の苦しみ救済が課題~
◇移植を決断
大阪大学大学院(工学研究科)の木崎俊明さんは20代。数年前に急性骨髄性白血病と診断され、大学病院に入院した。抗がん剤治療で倦怠感や吐き気、食欲不振で体重が16キロ減った。寛かい状態に至ったものの、予後の状況をめぐり、主治医に相談した。化学療法だけで治療を終えた急性骨髄性白血病患者の予後は、年数の経過とともに不良になる場合がある。治療選択肢の一つが造血幹細胞移植だ。 「正直に言って悩みました。つらい治療だという話を聞いていましたから」。木崎さんは主治医と話し合った上で、移植を受けることにした。家族や友人から背中を押されたこともある。「真っ暗な人生に一筋の光が差しました」と振り返る。
◇夜も眠れなかった
「慢性GVHDで爪が変形したり、目がドライアイになったり、手のひらの皮膚がぼろぼろになったりします。何とか我慢しようと思いましたが、皮膚のかゆみも相まって夜も眠れませんでした」 そこで、免疫抑制剤を増量することになるが、木崎さんは「別の問題が生じました」と話す。副作用だ。骨密度の低下やステロイド性糖尿病、常に顔がむくんでしまう「ムーンフェース」などが患者を苦しめる。 移植後、3年が経過した木崎さんは今も1日に17錠の飲み薬、4種類の塗り薬を使っている。とても大変に思えるが、主治医と十分に相談し、できるだけ副作用が少ない治療薬を選択したり、薬の投与回数を工夫したりすることで生活の質(QOL)の向上を感じている。「移植の経験などを踏まえて、白血病などの患者の人たちに情報を発信したい」と話す。
◇新薬に期待
以前は、慢性GVHDの治療薬は副腎皮質ステロイドしかなかった。しかし、患者の約半数には効果が不十分だった。そうした中で、21年にイムブルビカ、23年にジャカビという新薬が登場。24年3月にはレズロックが承認され、5月から発売された。レズロックは他の新規治療薬と異なる作用機序を持つROCK2阻害薬。豊嶋教授は「治療を妨げる最大の原因である血球減少、免疫不全がマイルドで、じっくりと長期に使用することが期待できる。ステロイド剤が効かない慢性GVHD患者の苦痛を和らげ、将来の人生に希望を与える一助になればよい」と期待をかけている。(鈴木豊)