日台合作『青春18×2 君へと続く道』、台湾と日本をつなぐ特別な恋愛映画の誕生
「日本映画」と「台湾映画」のあいだで
本作は日本パートがロードムービー、台湾パートが観光映画のような趣だ。スクリーンに映し出される台湾文化といえば、道路を走るバイク(二人乗り!)、夜の街に光を放つ賑やかな夜市、ジミーとアミが訪れる廟、ジミーの父親が淹れる台湾茶、そして空に舞い上がるランタンなど。「これぞ台湾文化の王道!」と呼びたくなるものばかりである。 むろん、それらの多くは「アミの見た台湾」を示すものだから、日本視点で台湾とその文化が描かれていることには一定の必然性がある。初恋を思い出すというノスタルジックな物語上では、「レトロでノスタルジック」と形容されがちな台湾の町が郷愁を演出するための装置となりかける瞬間もあるが、それをぎりぎりのところで踏みとどまったのは、今村圭佑の撮影がときにダイナミックに、あまり見たことのない形で現地の風景を切り取っているからだ。 逆に、日本パートはさほど「ジミーの見た日本」にはなっていない。列車から見た雪景色の美しさは白眉だが、それでも日本パートは風景より人々に重きを置いた印象だ。そのかわり、映画の中には台湾でも愛された日本文化がたくさん登場する。漫画『SLAM DUNK(スラムダンク)』やゲーム『桃太郎電鉄』、岩井俊二監督の映画『Love Letter』(95)、主題歌を担当しているMr. Childrenなどだ。それらの存在が、ときにはスクリーンに映る日本そのものよりも強烈にジミーの物語を支えることになる。 すなわちこの映画では、日本と台湾それぞれの俳優たちだけでなく、双方の土地と文化も混じり合ったのだ。その結果、それらを見つめる作り手の立ち位置もいい意味であいまいになったのだとしたら──本作が「日本映画」と「台湾映画」のあいだにあるような印象の理由は、きっとその“揺らぎ”にこそあるのではないか。 思えばヒロインのアミも、日本の少年漫画に描かれるような「憧れの年上」めいたキャラクターでありながら、そのつかみどころのなさは、前述した『1秒先の彼女』を含む台湾製恋愛映画のヒロインたちに通じる。また、大人になった男が初恋を回想する物語や、日本文化へのリスペクトという共通点で言えば、ギデンズ・コー監督による台湾の大ヒット作『あの頃、君を追いかけた』(11)を思い出させもするだろう。 しかし、そういった重層性こそあるものの、現代と18年前、日本と台湾を股にかけて展開する脚本は決して複雑ではなく、むしろ根底に横たわるものはシンプルかつ丁寧だ。核心に触れるため詳述は避けるが、物語の後半はさらにドラマティックになり、過去の藤井作品に共通するテーマも立ち上がってくる。実はその展開が原作のエッセイ通りであるあたり、本作を藤井が撮ることになった必然も感じられるというものだ。 私たちは「日本映画らしさ」「台湾映画らしさ」をどこで感じているのか。内省的でウェットなラブストーリーは「日本らしい」のか、明るさと情熱を帯びた青春は「台湾らしい」のか、その逆もまた真実だろうか? しかし最後にはどちらとも異なる、どこかカラリと乾いた後味が残るのもおもしろい。これぞ「日台合作ならでは」と言える多様な作風の絶妙さと、それらすべてを渡り歩いたシュー・グァンハンの演技に、あらためて大きな賛辞を送りたい。