<安彦良和>回顧展「描く人、安彦良和」インタビュー(2) 引退はしない 「ガンダム」映像化はもうないのか?
マンガの長期連載はないかもしれないが、引退したわけではない。
「仕事を全くやめてしまうと、冗談抜きでボケてしまいますから。まだ仕事ができることはありがたいことです。まだそれなりに描けるし、まだやれます」
◇松本零士さんに教えてもらった筆で描く
回顧展「描く人、安彦良和」では、安彦さんの創作活動の軌跡をたどる。劇場版「機動戦士ガンダム」のポスターラフ案、ガンダムのマスクのデザインの原案ラフ、「宇宙戦艦ヤマト」のポスターラフ案など貴重な資料が初公開された。
「初めて出るものも結構あると思います。本棚の隅にあって、なかなか触る気がしないものもありました。いまだに読み返していないものもあります。昔に描いたものの中には、何月何日に描き始めて何月何日に終わったと記録されていて、それを見て愕然(がくぜん)としました。記憶は当てにならないですね」
安彦さんはマンガを筆で描いているといい、原画を見ると、繊細な筆づかいを感じる。
「アニメーターになってから鉛筆で描いていたので、ペンがいかにも硬くて、筆にたどり着きました。『ヤマト』の時、松本零士さんにお願いした設定を取りに行ったら、松本さんの仕事机に筆があったんです。面相筆で描いたこともあったけど、それはくたくたになってダメでした。松本さんに教えてもらったのは、削用筆でした。いろいろ試したのですが、結構高いんです。中国の画材を売っている店で、安く手に入ったので、これはいいと使い出しました。その店はもうなくて、なかなか手に入らなかったけど、通販で買えるようになり、まとめ買いしました。まだまだたくさんあるので、あと10年くらいは持ちそうです」
約1400点と展示数は膨大で、どれもがアニメ史、マンガ史に残る貴重な資料だ。
「原画展のイメージだったけど、下書き、実現しなかった企画にも学芸員さんが飛びついてくれて、いまだに戸惑っています。元々、物持ちは悪いんですよ。きちょうめんな人は残すと思いますが、仕事が終わると、やけになって捨ててしまいます。でも、何となく捨てるのをためらったものが物置に残っていたんです。特に昔の絵は恥ずかしいです。赤面です。その時々の癖や傾向もありますしね」