「どうしてそんなものに?」というようなことに金を使わない『買談バナシ~なんで買ったか聞いてみた~』/テレビお久しぶり#90
長らくテレビを見ていなかったライター・城戸さんが、TVerで見た番組を独特な視点で語る連載です。今回は『買談バナシ~なんで買ったか聞いてみた~』(日本テレビ)をチョイス。 鉄板トークはどこに、、、『るてんのんてる』/テレビお久しぶり#89 ■「どうしてそんなものに?」というようなことに金を使わない『買談バナシ~なんで買ったか聞いてみた~』 私は、「どうしてそんなものに?」というようなことに金を使わない。4ケタ以上のまとまった金を使うタイミングといえば、服を買うときや、飲みに行くときといったくらいで、それらはごくごく一般的な金の使い方と言えるだろうし、先日5万円以上出してPlayStation5を買ったが、「どうしてそんなものに?」と指摘してくる人がいるはずもないだろう。なぜならプレステ5なのだ。購入できる権利を抽選していたくらいの、あのプレステ5だ。誰だって欲しいはずだ。 良いように言えば堅実なのだろうが、しかし、「どうしてそんなものに?」というようなものに情熱を燃やし、大金をつぎ込む生き方のほうが断然クールだ。誰からも理解されない、自分だけの情熱。私にはそれがまったくない。服の趣味ひとつ取ってもそのシケた感性は明らかで、私は黒とか紺とかグレーしか買わない。無難で安全で、他とも合わせやすいからだ。この「他とも合わせやすい」ということが、私にとっては重要なのだ。たとえば渋谷で上映されている映画を見たいと思ったとき、「じゃあ渋谷に用事のあるときに行こう」と考える。そうすれば、ふたつの事柄を、一度の交通費でこなすことができる。そんなケチなことを考えながら、渋谷での用事なんて発生するわけもなく、結局映画も逃してしまう。二兎を追うものは一兎も得ずとはまさにこの事(片方の一兎は最初から存在しないのであるが)、自分は映画が好きだと吹聴しているくせに、ずいぶんケチ臭くて本当に悲しくなってしまう。こんな人生まっぴらだ。俺もワケのわからんモノに大金を使ってドン引きされたい! さて、そんな醜い欲求を抱えている私にとって、一風変わった高級品を購入した人に密着する『買い談バナシ~なんで買ったか聞いてみた~』は、かなり興味深く、面白い番組であった。是非TVerで鑑賞していただきたいと思うのだが、私が何よりもあこがれを抱いたのは、最初のエピソードに登場するコルコハさんだ。彼女は仮面の愛好家で、13万円のリアルな人面マスクをはじめ、様々な仮面をコレクションし、それらを身に着けて日々を活動している。そんな彼女は、仮面愛好家たちの集うパーティへ行き、そこで行われる仮面のオークションに参加する。信じられない額の飛び交う中、彼女も負けじと張り続ける、その競りが、大多数の人間が価値を感じないもので行われているという状況がたまらない。こういうことを私もやりたいのだ。同じ嗜好を持った人間同士が同じ場所に集まっている現象そのものも魅力的。しかも全員、仮面をつけているのだ。端的にカッコいいとしか言いようがない。 私も、自分が銀行強盗をするならどんな仮面をつけるだろうとしょっちゅう考えるし、仮面というアイテム自体が相当に魅力的であるし、13万円はさすがにムリとしても、それなりの額を仮面に払う準備は整ってしまった。それにスリムなスーツを着、ハットを被って、トゲトゲのついたヨーヨーで敵と戦ったりもしてみたい。そして最後の敵にたどり着いたとき、度重なる戦闘で仮面の一部は割れており、露出した右目はなおも闘志に燃えている、それが私の理想である。理想を持つだけなら無料なのだ。