【舛添直言】ASEANの有識者「アメリカか中国、どちらを選ぶか」の問いに「中国」が多数派に
(舛添 要一:国際政治学者) 4月2日、バイデン大統領と習近平国家主席が電話で会談した。昨年11月にカリフォルニア州で行われた米中首脳会談以来のことである。会談は約1時間45分間行われ、「率直で建設的」だったという。 【写真】2021年11月、中国・ASEAN対話関係30周年記念サミットをオンラインで主宰した習近平主席。参加国首脳に向けてにこやかな笑顔で手を振っている ウクライナ戦争をめぐって米露関係は険悪な状態になっているが、米中関係は外交的には安定しているように見える。両国は、今後、世界をどのように変えようとしているのか。 ■ バイデン-習近平 電話首脳会談の内容 会談の具体的内容は、軍の対話の継続、AIについての対話の開始で合意し、違法薬物の流通阻止、地球温暖化対策などでも協力関係を強化するという。また、ブリンケン国務長官が数週間以内に、イエレン財務長官が3~9日に訪中することも決まった。 貿易関係については、バイデンは、中国の「不公正な貿易政策と市場原則に基づかない経済慣行」を問題にした。また、TikTokに関しても懸念を表明した。これに対して、習近平は「競争の名を借りて正当な発展の権利を奪うべきではない」として、アメリカによる制裁や規制を批判した。 台湾や南シナ海については、バイデンは、中国による一方的な現状変更の試みを批判し、自制を求めた。これに対して、習近平は、台湾独立派を支持しないように求め、台湾問題を越えてはならないレッドラインだとして警告した。またバイデンは、南シナ海に関しても、フィリピン周辺での中国船による危険な行為に懸念を示し、法の支配と航行の自由の重要性を強調した。 この電話会談が実現した背景には、両国の思惑がある。
アメリカは、ウクライナ戦争やイスラエルとハマスの戦闘への対応に忙殺されており、米中関係の緊張を望んでいない。また、不動産不況などで経済が低迷する中国は、米中関係の改善によって景気回復を狙いたい。 しかしながら、これからの世界でアメリカのライバルとなるのはロシアではなく、中国である。IMFのデータによれば、2024年の名目GDPランキングは、1位がアメリカで27兆9655億ドル、2位が中国で18兆5600億ドル、3位がドイツで4兆7008億ドル、4位が日本で4兆2861億ドル、5位がインドで4兆1053億ドルである。ロシアは12位で1兆9043億ドルである。つまり、ロシアは核軍事大国であるが、GDPでは中国の10分の1にしかすぎない。 因みに、10位までの順位は、6位イギリス、7位フランス、8位イタリア、9位ブラジル、10位カナダである。日本は、今のように経済が低迷していると、インドにも抜かれて5位に転落することが予想される。 中国もインドも、かつて領土を侵略し植民地化したヨーロッパや日本を凌駕する経済大国になっている。これは、旧宗主国への仇討ちとも言えようが、これが21世紀の時代の流れである。 ■ 次の覇権国はどこか―世界システム論を超えて 近代の世界の歴史を振り返ると、時代によってナンバーワンの国(覇権国)が変わっていった。19世紀はイギリスの時代(パックス・ブリタニカ)、20世紀はアメリカの時代(パックス・アメリカーナ)であった。21世紀は中国の時代(パックス・シニカ)となるのではないかという議論もある。 世界システム論によれば、覇権国に挑戦する国とは別の国が次の覇権国になる。つまり、アメリカに挑戦する中国ではない国が台頭するというのである。それはどの国か。インドが候補となりうるであろう。「インドの平和(Pax Indica)は実現するのであろうか。 しかしながら、世界システム論が今の世界に適用できるか否かは問題であり、相互依存関係が深まり、経済のグローバル化が進んだ今日の世界においては1980年代に流行した世界システム論では十分に把握できない現象も生じている。競争の側面のみならず、協力の分野にも注目すれば、覇権の議論は時代遅れかもしれない。