<テニス>ATPツアーで大躍進 ダニエル太郎とは
アメリカ人の父を持ち、ニューヨークで生まれ、日本人の母と古式ゆかしい日本男児の名前を持ち、そしてスペイン仕込みのプレースタイルを持つ――それが、チリ・オープンでベスト8の快進撃を見せた、ダニエル太郎というテニスプレーヤーである。大会参加時のランキングは226位ながら、予選を勝ち上がりATPツアーの本選へ。初戦で、4年前の同大会優勝者のトマス・ベルッチを破る金星をあげると、2回戦では第8シードのフェデリコ・デルボニスをも撃破。長身と長髪がトレードマークの21歳は、たちまち大会の注目選手となった。
ダニエルが地元でも関心を集めた理由の一つに、一般的には日本人が最も苦手とするクレー(土)コートで、土に慣れ切ったプレーを見せたことがあるだろう。さらには彼が、流暢なスペイン語を話すことも驚きだったかもしれない。 もっともダニエルの経歴を考えれば、それは普通のことだった。彼は14歳からスペインに住み、クレーコートが揃うバレンシアのアカデミーで腕に磨きをかけてきた。同じアカデミーには世界5位のダビド・フェレールらも所属し、ダニエルは若い頃から、それらトッププロと練習を共にしている。「フェレールは、練習の時でも全てのボールを人生最後の一球みたいに追っています。彼と練習した経験が、強い相手でも緊張しない理由かもしれません」。 あどけなさの残る表情と、どこか飄々とした口調で、彼はそう話したことがある。球足が遅く、長いラリーが続くクレーコートで勝ち抜くには、長期戦を苦にしない体力と精神力、そして鉄壁の守備力が不可欠。ダニエルもそれらの要素を日々の練習で体得し、最近では攻撃力も向上してきた。プレーの土台となるフィジカルの上に、両手打ちのバックで放つクロスの強打などポイントを奪う武器を築き上げ、今こうして開花の時が訪れたのだ。 精神的な側面で言うと、育ってきた環境の影響もあるだろうか、泰然自若とした佇まいはプロテニス選手向き。特に、彼のようなプレースタイルの選手には、欠かせない資質だろう。例えば彼がまだジュニア時代に、こんなことがあった。テニスはクレーやハードなどコートの種類によりシューズが異なるが、ダニエルはハードコートの大会に、クレー用シューズを履いて出場していたのだ。そのことについて尋ねると「このシューズ、もう古いので、履き潰して捨てていこうと思って」と、事もなげに言ってのけた。このような逞しさは、世界各地を転戦するうえで大きなメリットになるはずだ。