現代のメリー(9月11日)
ぎくしゃくする日米関係を和らげよう―。実業家渋沢栄一らが発案した戦前の民間外交の切り札だった。両国間で人形がやりとりされ、日本国内では小学校や幼稚園に配られた▼福島市の荒井小に届いた青い目の「メリー」は、今も大切に保管されている。砲撃の轟[とどろ]きとともに、親善の証しは憎悪の的に変わった。ふっくらと、愛らしい容貌からは想像もつかないが、苦難の歴史を経験したようだ。終戦から79年を迎えた今年、児童は戦火の記憶を伝えようと、人形をテーマにした創作劇を披露する。試演会が16日に迫る。演じるのは4年生以上の7人。初舞台を成功させようと、稽古に熱がこもる▼間もなく幕が引かれる岸田政権にあって、大きな成果と評価する声は少なくない。韓国の尹錫悦[ユンソンニョル]大統領と、関係の正常化で合意した。両夫妻が笑顔で並んだ会食の写真は、新たな時代の到来を予感させた。11年以上途絶えていた「シャトル外交」が復活し、「近くて遠い」と言われた隣国に新たな架け橋が築かれた▼国民同士、草の根の交流をもっと広げたい。現代の「メリー」は、多くのファンを抱える映像や音楽。今後二度と、せっかくの友好が反発に変わらぬように。<2024・9・11>