イランの経済が悲惨すぎる…日本なんて比じゃない、ハイパーインフレに苦しむ「驚きの実態」
---------- イスラム体制による、独裁的な権威主義国家として知られるイラン。しかし、その情報は、日本では極めて少ない。長年現地に住んだ経験を持つ若宮總氏の著書『イランの地下世界』(角川新書)から一部抜粋し、イランの庶民のリアルな生存戦略と実態を解説する。 ---------- 【マンガ】カナダ人が「日本のトンカツ」を食べて唖然…震えるほど感動して発した一言
“イスラムごっこ”──地に堕ちた革命の理想
イラン・イスラム共和国は、政教一致の国と言われている。 ホメイニは、イスラム法学者たちが直接政治に関わるべきだと説いた。イスラムに精通している彼らこそ、神の命じるとおりに国を動かし、この世に理想郷を築くことができるのだ、と。 この「法学者による統治論」を形にすることによって生まれたイスラム共和国は、今も自らを「神意に基づく永久不滅の体制」と呼び、軽くこの先千年くらいはイランを支配し続けるつもりでいる。 だが、「理想郷」の実情は惨憺たるものだ。はっきり言って千年はおろか、十年先すら危うい。 いちばん深刻なのは、経済だ。 そもそも、どんなに抑圧的な体制でも、経済さえうまく回っているうちは、国民は多少の政治的な不自由は我慢できるものだ。しかし、イランの場合は、政治のみならず経済まで混乱を極めている。 2018年にアメリカのトランプ政権が一方的に核合意から離脱したことで、対イラン経済制裁が復活、イランは日本を含めた原油の主要輸出先を失った。 これにより政府の歳入は激減し、通貨リヤルはこの5年ほどのあいだに、対ドルで10分の1近く価値を落とし、下落に歯止めがかからない。 国内ではハイパーインフレが進行、食料品や日用品の価格は一年間で三倍くらいのペースで上がり続けている。今年、一本200円の牛乳が、来年の今ごろは600円、再来年は1800円に、と想像すればこのインフレの凄まじさが分かると思う。 一方、給料のほうはなかなか上がってこないために購買力は低下、これまで社会の大部分を占めていた中流階級が急速に没落し、今や国民の七割が貧困層に転落したとするデータもある。 かつては年に一、二回、海外旅行に出かけていたような人たちが、最近では日に三度の食事を一度や二度に切り詰めたり、肉や魚を控えたりしている有り様だ。 人々が文字どおり明日のパンにもこと欠くなか、法学者たちはといえば、大真面目にこれを「神の与えたもうた試練」などとのたまい、国民に忍従を強いるばかりで何ら有効な手立てを講じようとしない。 法学者の無能ぶりに耐えかねた国民は、選挙によって自分たちの声を政治に届けようとしてきたが、そこに立ちはだかったのが最高指導者ハメネイの独裁である。 この男は80歳をとうに過ぎ、そろそろ老境の悟りでも開くころかと思ったら、とんでもない。反対に、一層かくしゃくとして権力集中に邁進、露骨な選挙干渉によって自らの周囲をすべて身内で固めてしまった。 議会も大統領もハメネイの走狗と化した今、国民にとって民意を表明できる場所は、もはや街頭しか残されていない。 だが、反体制デモが起きるたびに、ハメネイはそれを「イスラムの敵による陰謀」と切り捨て、武力で弾圧するばかりで、対話に応じる姿勢を一切見せていない。 今や「法学者による統治」が、完全に破綻しているのは誰の目にも明らかだ。なぜなら、その実態は「能力は皆無だが、権力欲だけは人一倍強い人間による統治」でしかないのだから。 そこではイスラムが、社会正義の実現のために生かされないばかりか、「神の与えたもうた試練」(失笑)、「イスラムの敵による陰謀」(笑止! )などという言葉によって、もっぱら不都合な現実を正当化し、政治責任を回避する口実として使われている。 このように、イスラムの理念が中身をともなった政策と結びつかず、都合のよい単なるお題目として重宝がられている状況を、私は“イスラムごっこ”と呼んでいる。 ちょうど小さな子どもが、実際にはありもしない店先に立ち、がらくたを並べて「お店屋さんごっこ」に興じるのと同じように、イランの法学者たちもイスラムを適当に振りかざして政教一致を実現した気になっているのである。
若宮 總