【社説】トランプ氏有罪 分断と対立の拡大を懸念
有罪評決は意に沿わない結果だろう。だからといって、同調する民衆をあおり立てる言動は容認できない。米国社会の分断がさらに深まることを憂慮する。 トランプ前米大統領が不倫の口止め料を不正に会計処理したとされる事件で、ニューヨーク州地裁の陪審団は34件の罪状全てを有罪とする評決を言い渡した。 米大統領経験者が刑事事件で有罪評決を受けたのは史上初めてである。 評決は、人種や職業もさまざまな市民から選ばれた陪審員12人の全会一致だった。2016年の大統領選で「不利な証拠をもみ消し、有権者を欺いた」とする検察の主張を認めた結果だ。 今年11月の大統領選で返り咲きを目指すトランプ氏にとっては大きな痛手だろう。 記者会見したトランプ氏は「裁判所と政権は結託している」と述べ、有罪評決はバイデン政権による司法制度を使った政治的迫害だと訴えた。 トランプ氏はこれまでも具体的な根拠を示すことなく、裁判を「魔女狩り」「選挙妨害」などと非難してきた。 今回の有罪評決によって懸念されるのは、このようなトランプ氏の主張に影響された支持者と、反トランプ派の人たちとの対立が一段と拡大することである。 実際、有罪評決を出した裁判所の前ではトランプ支持者と反トランプ派が集まり、小競り合いが起きた。 前回の大統領選後に起きた連邦議会襲撃事件の教訓を忘れてはならない。敗北を認めようとせず、選挙結果を覆そうと試みたトランプ氏にあおられた支持者が暴徒と化し、事件は起きた。 トランプ氏は不倫口止め事件のほか、この連邦議会襲撃など三つの事件でも起訴されている。 選挙結果や司法判断に従うのは、民主主義や法治国家の基本である。異議があれば、ルールにのっとって申し立てればよい。 民衆をたきつけて不満をアピールするような人物は、大統領になる資格がないと言わざるを得ない。トランプ氏は厳に発言を慎むべきだ。 不倫口止め事件の量刑は7月11日に言い渡される。トランプ氏は前科がないこともあり、実刑の可能性は低いとみられる。だが量刑次第では、国民間の対立がさらに激化する恐れがある。 トランプ氏と再選を目指すバイデン大統領の支持率は拮抗(きっこう)している。5カ月後の大統領選に向け、両者の争いは激しさを増すだろう。誹謗(ひぼう)中傷合戦が過熱すれば、前回のような混乱を招きかねない。 政策や政権運営について意見を戦わせる選挙戦でなくてはならない。バイデン氏にも冷静な対応を望む。 民主主義の主役は国民だ。民主国家の旗手を自任する米国民は、過激な言動に惑わされず、意見の相違を対話で克服する姿を示してほしい。
西日本新聞