還暦過ぎたら「上がりのクルマ選び!」 モータージャーナリストの国沢光宏がレクサスLC500コンバーチブルとLC500に試乗! こういうクルマでアガリたい!
オープンを選ぶか、それともクーペか? それが問題だ!
「自分の上がりのクルマ」を日々考えているという自動車ジャーナリスト、国沢光宏。レクサスLC500はその候補のひとつ。こんなクルマに乗れるのは元気なうち。最後に乗るならオープンか、はたまたクーペか。オトコ国沢はどっちを選ぶ? 【写真27枚】モータージャーナリストの国沢光宏さんが「上がりのクルマ」の候補に選んだ2台のレクサスLCの詳細画像はこちら ◆別格のLC レクサスの中でLCは別格の存在だと思っている。というのも大半のレクサスはトヨタ車をベースに、メーカーがドレスアップしたもの。最も新しいLBXなども中身はヤリスクロスのため、助手席パワーシートはオプションでも選べない。良いクルマに乗ってきた奥さんだと、座った瞬間「これ安いクルマね」になってしまう(笑)。私も初めてLBXを見た時に「あれ?」と思った次第。 今まで様々なクルマを乗ったり買ったりしてきたけれど、クルマには4つのタイプがあると考えている。すなわち1移動の道具。2荷物を運ぶ。3走りを楽しむ。4上質感を楽しむ、というもの。このウチ、2までは実用品であり「世の中に必要なもの」である。3についていえば遊びの道具。これも人間という「遊ぶ生き物」に必要なものと考えていい。 しかし4になると、こらもう贅沢としか言えない。自分へのご褒美と言い換える人もいるけれど、完全に「世の中では不要なもの」だと思う。そんなことを自然に感じるんだと思う。私の場合、贅沢なクルマに乗っていると、窓から見える風景を見て「申し訳ない気持ち」になってくる。逆説的に考えるなら、申し訳ない気持ちになるクルマって必要以上に贅沢です。 ◆センチュリーとLCだけ ロールス・ロイスやベントレー、アストン・マーティン、フェラーリなどに乗っていると「贅沢してすみません」という気持ちになってしまう。毎日乗っていると鈍くなりますけど。国産車の中でそういった感覚を持てるのはセンチュリーとLCだけである。センチュリーは運転するクルマじゃないのでコッチに置いておく。LC、乗る度に「上がりのクルマにいいかな」と思う。 同世代の読者諸氏なら説明するまでも無く「上がりのクルマ」をイメージして頂けると思う。まだ現役びんびんの40歳前後の人も、20年すれば考える。今まで様々なクルマに乗ってきた人なら、人生最後の相棒を見つけたくなります。少し脱線するけれど、本当の意味での「最後のクルマ」は、軽自動車になるだろう。近所の買い物や、防波堤まで釣りに行くなら十分だ。 「上がりのクルマ」は元気なウチに乗る最後のクルマを示す。人によっても違うけれど、年齢にすれば65歳以上だろうか? 若い頃、スコットランドでお年寄りが少しくたびれたロールスのコーニッシュでパン屋さんに奥様と一緒に来ているのを見た。以後、そのシーンを何度も思い出す。あんな爺さんになれたらいつ死んでもいい。ということで10年くらい前から「上がりのクルマ選び」を考えている。 近所の中古車屋さんに有名芸能人が乗っていたフェラーリ・カリフォルニアを内金持って見に行ったこともあるし、ベントレー・コンチネンタルGTも買う寸前だった。最後に踏みとどまったのは「果たして気軽に乗れるのか?」という点。以前、フェラーリ328と348を乗り継いだ。その時はあまり乗れませんでした。というのも気軽に乗れるほどの財力を持っていなかったからである。当て逃げされたら厳しい。 トラブルの多いクルマだとメンテの費用も考えなくちゃならない。エアコンが壊れたら40万円とか言われると、高齢者にとって厳しいでしょう。そういったことを総合して考えると、けっこう魅力的なのがLCだったりする。信頼性という点ではメイドインジャパン。LCも大きなトラブルが出たという話は聞かない。そもそも丈夫なことで知られるトヨタだ。修理だって国産車価格で済む。 ◆クーペか、それともオープンか 価格は新車で中古のカリフォルニアやコンチネンタルGTと同等。上がりのクルマは出来れば新車で買いたい。ということでLCのカタログを見ると、大きな選択をしなければならない。そうです。今回のテーマである「クーペかオープンか」であります。LCは途中でオープンを追加したのだけれど、これがまたイイ! 屋根を開けるとクーペより強い「贅沢してすみません感」がある。 考えてみたらコンチネンタルGTの時もクーペかコンバーチブルかで迷った。もっと言えば、同じモデルにオープンがあれば、どんなクルマでも迷うと思う。ただ500万円程度のクルマでオープンを選ぶとなると、車両価格にして20%以上高くなってしまう。一方、高額のクルマなら10%程度の差。消費税と同じくらいで済む。当然ながら大いに迷うでしょう。 ちなみに過去、ケイマンかボクスターかというときは、考えること無くオープンのボクスターを買った。なんとなれば「オープンの方が安かった」からだ。最新の718はオープンの方が高くなりましたけど。今考えても先代の「ケイマンより安いボクスター」の価格設定はナゾである。脱線した。LCのボディ選びだった。それぞれどういった特徴と弱点を持つのか? 幌タイプの屋根であれば、必ず幌は寿命を迎える。保管状態にもよるけれど、屋外なら10年。屋内であれば20年以上コンディションをキープ出来ることだろう。私は屋内駐車なのでどちらでもいい。現在65歳。間違いなく免許返納まで幌でも問題無いと考えます。もちろん金属トップであれば耐久性についての心配は無い。動きが複雑な電動トップだと開閉機能のトラブルは出るか? 視認性という点でもオープンはクーペに届かない。リアウインドウの面積を確保出来ないからだ。LCも、クーペからルーフを閉じた状態のコンバーチブルに乗り換えると「あれれ?」と思うくらい視野は狭くなる。斜め後方に付いた白バイだって発見しにくい。有り難いことに最近のクルマはバックカメラが付くし、斜め後方の接近センサーだってあるから慣れると言えば慣れる。 ◆気持ちのいいオープン オープンの魅力は当然ながら屋根を開けた時の気持ちよさにある! 同じクルマであっても屋根を開けた時の開放感ときたら筆舌に尽くしがたい。特に新しい世代のオープンはトップを開けた時の空気の流れまで風洞で入念にチェックしているため(キャビン後方のリフレクターなども有用)、屋根を開けて走っても古いクルマのように髪の毛が渦巻くようなことだって無い。 クローズドから屋根を開けるのはスイッチ一つ。ロック操作不要。使い勝手に文句無し! また寒い時季であってもシートヒーターや、パワフルで空気の流れをしっかり考えられたエアコンによって案外快適に走れてしまう。むしろ「頭寒足熱」が気持ちよいほど。最大の「こりゃダメだ」は夏の昼間。そもそも周囲に茹だったジジイを見せるのは悪い趣味だと考えます。 そして「少しばかり恥ずかしい」こと。読者諸氏もオープンで調子に乗って走っている高齢者を見た経験あるだろう。決して「いいね!」という印象にならない。隣に若い女性でも乗せていたら、少しばかりイラつく。今回は撮影だから都内でトップを開けて走っているけれど、プライベートであれば開けないと思う。実際、かつて何台かオープンカーを所有したが、ほぼ閉じて走っていた。 ここまで読んで「じゃオープンを選ぶ意味ないですね」と思うかもしれない。その通りです。むしろトラブルフリーでボディも剛性高く(しっかり補強入れているLCはルーフを閉じておけばボディ剛性は気にならないレベル。いや、開けてもブルブル感は無い)、視界もバッチリのクーペの方が上がりのクルマとしてふさわしいような気がする。ここでまた迷うことに。 ◆絶滅危惧種のV8 興味深いことにLCはオープンを選ぶと自動的に今や絶滅危惧種となった5リッターV8だけとなる。さすがに今回のマイナーチェンジで騒音対策をしたんだろう。爆音を出していた初期型よりずいぶん静かになってしまい、V8特有の「ぐももも」というビート音もしない。それでもV6のハイブリッドよりクルマらしい。ここはもう最後のクルマということも考え、V8でしょう。 そして開けなくてもいいから「開けることも出来るんだぞ!」という気持ちだけでオープンを選びたい。何を隠そうLCも上がりのクルマの候補に挙げており、今回の取材以前から「乗るなら瞬時も迷わずオープン!」と決めている。年に数日かもしれないが、暑くも寒くも無い快適な天気の日に屋根を開けて走ると「ごめんなさい!」と謝りたくなるくらい気持ちいいです。クーペは現役の人にすすめておく。 文=国沢光宏 写真=茂呂幸正 (ENGINE2024年6月号)
ENGINE編集部
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