映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』のダンスパーティ、時代考証が違うギターが使われたワケ…表現の自由を謳歌したエンターテインメントの教訓とは
映画に貢献できるのは、“見た目のカッコよさ”?
ノーマンはハリウッドとの映画の仕事で、1975年に『ウディ・ガスリー/わが心のふるさと』で、時代考証に合った適正な楽器を提供して、各シーンに真実味を持たせて大きな貢献をした経験があった。 1955年を描く映画なのに、その時は存在していない楽器を使うことに対して、ノーマンにはどうしても抵抗感がつきまとった。 一方、3本のギターの写真を見た美術監督は、〈ES-345TDC〉を撮影に使うことを決めた。時代考証に合わないギターだと念押ししても、美術監督は考えを譲ることはなかった。 そのギターもまた4週間ほど、小道具のトラックに積まれたまま出番を待つことになった。かさむ一方のレンタル料はすでにギターの本体価格の数倍に達していたが、彼らは一向に気にせずに仕事を進めていた。 だから映画がクランクアップした時、ノーマンは正気の沙汰ではないような金額をレンタル料として受け取ることになった。 それからしばらくすると、またしてもスタッフからノーマンに連絡が入り、プロモーション資料用のために撮影したいからと、同じギターを貸してほしいという申し出があった。〈ES-345TDC〉はさらに3週間レンタルされた。 まともな神経では考えられないことだったが、それで誰もが満足して仕事はうまく進み、終始丸く収まったという。 映画は1985年7月3日に全米公開されて、そこから世界的な大ヒットを記録し(日本公開は同年12月)、1989年には続編も製作されて最終的に3部作となった。 そして再びノーマンのもとに、「もう一度ギターを貸してほしい」という連絡があった。〈ES-345TDC〉と映画は、もはや切っても切れない関係となっていたのだ。 ノーマンが得た教訓は、表現の自由を謳歌した『バック・トゥ・ザ・フューチャー』のようなエンターテインメントでは、時代考証にそれほど目くじらを立てる必要はないということだった。それよりも見た目のカッコよさのほうが、映画には貢献できるということを学んだ。 それともう一つ。 ハリウッドとの仕事では、物品を貸し出すだけで相当に甘い汁を吸えることを、知ることができたそうだ。 文/佐藤剛 編集/TAP the POP サムネイル/左:2014年6月25日発売『バック・トゥ・ザ・フューチャー ベストバリューDVDセット』(NBCUniversal Entertainment Japan)、右:Shutterstock 参考・引用/『ビンテージ・ギターをビジネスにした男 ノーマン・ハリス自伝』(リットーミュージック)
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