ラウ・チンワンの“奇行大熱演劇場”だけでも一見の価値あり! 『神探大戦』は唯一無二の味
常にブチギレて喚き散らすラウ・チンワンの奇行大熱演劇場
まず監督を務めたワイ・カーファイだが、この人は主に香港の巨匠ジョニー・トーと一緒に仕事をしている人物で、「なんでそんな酷いことするんだ?」と真顔になる映画をたくさん作っている。たとえばジョニー・トーと共同プロデュースした『デッドポイント ~黒社会捜査線~』(1998年)は、私の中でも後味の悪さで言えば最高レベルの傑作だ。そしてトーさんとの共同監督作『マッスルモンク』(2003年)! 肉じゅばんでムキムキのアンディ・ラウにコメディだと騙されて観た観客に、逃れられないカルマの残酷さと恐怖を突きつけて、一生モノのトラウマを植えつけた。今回もノンストップアクションを描きつつ、「ヒロインには殺人鬼に3日間に渡って暴行された過去がある」「そのヒロインが最愛の夫の子を妊娠した状態で、刑事をやっている」など、不穏な要素が盛りだくさん。これがどういう方向に転がるかは、是非その目で見届けてほしい。 そしてラウ・チンワンである。もうこれは観てくれとしか言いようがない。常にレインコートを着て、被害者の幻覚と1人で会話をしながら、常にブチギレて喚き散らす。「俺は神の捜査官だ!」と叫びながら激流に飛び込んだりするが、極めつけは、幻の拳銃を持って銃撃戦に乗り込むところだろう。自信満々の顔で銃弾が飛び交う修羅場に真正面から突撃していくが、その手は空っぽ。指で銃の形を作っているだけ。周りの警察官たちが困惑しつつ彼を助ける姿がたまらない。ラウ・チンワンの奇行大熱演劇場だけでも観る価値がある。 端的に言って、本作は変な映画だ。映画は凄い勢いで突き進んでいくが、一方で「何かが決定的に狂っている」という感覚が常に付きまとう。この味は唯一無二。誰にでもオススメできる映画ではないが、変な映画が観たい人には極上の一本になる可能性がある。「未体験ゾーンの映画たち」のイベント公開が終了したら、レンタルショップや配信に来ると思われるので、是非とも目撃してあげてほしい。
加藤よしき