鑑定医の診断 “妄想”は犯行に影響したのか【連載:京アニ事件ー傍聴席からの考察ー第4回】
京都アニメーションのスタジオに放火し36人を殺害したなどの罪に問われている男の裁判が、一つの山場を迎えた。最大の争点となっている“刑事責任能力の有無と程度”について、被告の精神鑑定を行った2人の医師への証人尋問が行われ、検察と弁護側の双方が本裁判の核心に迫る法廷論争を激化させた。京アニ裁判をめぐる連載、今回は、“精神疾患と責任能力”について考える。(報告:尾木水紀 阿部頼我 藤枝望音) 【動画】青葉被告に死刑判決 完全責任能力ありと認める 36人殺害の京都アニメーション放火殺人事件
■責任能力とは
刑事裁判において度々耳にする「責任能力」。京都大学で責任能力について専門に研究する安田拓人教授は、次の2つの要素から構成されると説明する。 ①認識能力:悪いことを悪いことだと思う能力 ②制御能力:犯行を思いとどまる能力 そもそも刑罰とは、“犯罪行為に対しての非難”であり、「なぜ、そんなことをしてしまったのか」というように非難を加えられる場合にしか科すことができないという。 安田教授は例として、「ピストルを突きつけられた状態で犯行を強制された場合」を挙げる。この場合、抵抗することができず自分の意思に反して罪を犯していると評価できるため、非難を加えることはできない。 責任能力の観点からは、②の制御能力が無いと判断されるため、罪に問われないと結論付けられるという。また、精神疾患と責任能力について、精神疾患があればただちに責任能力無しと判断されるわけではない。 精神の障害が圧倒的な影響を及ぼし、①と②の少なくとも片方が欠けている場合を心神喪失、そして、どちらかの能力が著しく減少している場合を心神耗弱と呼び、責任能力がない、または限定的と判断される可能性があるのだ。
■青葉被告の鑑定結果…2人の医師で診断分かれる
青葉被告について、起訴前と起訴後にそれぞれ別の医師によって精神鑑定がなされている。起訴前については検察側の請求で、起訴後については弁護側の依頼により裁判所の請求で行われた。鑑定内容は、①犯行時の精神障害の有無及び内容、②精神障害が犯行に与えた影響の有無及びその程度、の大きく2つである。