大人の絵本「東京となかよくなりたくて」 背伸びも気負いも、いつか懐かしく思い出す50のストーリー
4月からの新生活も一段落し、見知らぬ土地での寂しさや、思うようにいかないもどかしさが募っていませんか? 上京したばかりの人は、背伸びや気負い、焦りも入り交じる頃でしょう。そんな青春時代の東京暮らしをテーマにした50編のショートストーリーと、シティポップ風のイラストでつづられた大人向け絵本『東京となかよくなりたくて』(月と文社)から、3編を選んで紹介します。各編には合わせて聴きたいBGMのタイトルも添えられています。悩みの真っ最中にいる人も、あの頃が懐かしい人も、今の心境にぴったりの物語が見つかるかも知れません。 【画像】satsukiさんのイラストをもっと見る
新宿
「君もそろそろロレックスぐらいつけたら?」 30代になった頃、仕事で付き合いのある 40代のカメラマンに言われた。 その人は文字盤がゴールドのロレックスをつけていて、 「このまえ誰々(芸能人)を撮った」という話をよくしていた。 僕が会社で残業していると、 「仲良しの芸人と新宿で飲んでるから来ない?」と その人から連絡があり、 疲れてたけど、ちょっとだけ好奇心もあって行ってみた。 一時期すごくブレイクしていたけど、 最近はテレビであまり見ないその芸人は、 イメージしていたよりも真面目そうで、 地に足が着いている感じがした。 芸能人でもないカメラマンのほうが、よっぽどチャラかった。 40代になった今の僕は、 ロレックスは相変わらずつけていない。 でもある日、就職希望の学生を連れて行った新宿のバーで、 「うちの会社に入ったらモテるよ」とドヤ顔で言っていた、らしい。 隣に座っていた常連客の女性から「おめでたいね」と鼻で笑われた。 一応世間に知られてる会社の社員っていうブランドに頼ってる時点で、 ロレックスおじさんと自分、変わんないじゃん。 つまらない人間にはなりたくないと思ってたはずなのに、と まあまあ落ち込んだ。 でもやっぱり、つまらない人間になりたくないから、 これからもカッコ悪く、もがき続けると思う。 (BGM - くるり「東京」)