「常に眉に唾をつけていました」狡猾に擦り寄る「革マル」とたった一人の男の「国鉄民営化前夜」の争い
安倍元首相が国士と賞賛した葛西敬之が死の床についた。政界と密接に関わり、国鉄の民営化や晩年ではリニア事業の推進に心血を注ぎ、日本のインフラに貢献してきた。また、安倍を初めとする政治家たちと親交を深め、10年以上も中心となって日本を「事実上」動かしてきた。 【漫画】「しすぎたらバカになるぞ」…性的虐待を受けた女性の「すべてが壊れた日」 本連載では、類まれなる愛国者であった葛西敬之の生涯を振り返り、日本を裏で操ってきたフィクサーの知られざる素顔を『国商』(森功著)から一部抜粋して紹介する。 『国商』連載第22回 『「毒をもって毒を制す」元対立組織の極左・松崎明との「蜜月」...敵を取り込んだ日本の改革者・葛西敬之の「本当の」狙い』より続く
闘争する極左に膨らむ懐疑心
松崎の寝技の象徴的な事件の一つに、国鉄幹部のあいだで伝説的に語られてきた「ブルトレ事件」がある。1958年10月に国鉄が鳴り物入りで導入した青い寝台特急列車「ブルートレインあさかぜ」が、いっときブームを呼んだ。ところが82年に入り、ブルートレイン検査係のカラ出張やヤミ手当問題が浮上する。不正行為を働いていた労働組合員とそれを守ろうとした労働組合がやり玉に挙げられた。 当時国鉄では、旧来の国労や動労に加え、経営寄りで同盟系の鉄労や国労から分かれた右派保線職員系の全施労といった労組が活動していた。同盟は正式名称を全日本労働総同盟会議といい、左派色の強い官公労とは異なり、民間企業の産別労組の集まりとされ、旧民主党を支持した。この4労組のうち元来、極左に近かった動労が、なぜか職場を守るためと称して「働こう運動」を展開し、葛西たち改革組に賛同した。 結果、順法闘争という名のサボタージュを繰り返す国労が悪者になり、マスコミにバッシングされた。改革三人組はブルトレ事件における国労の行為を次々とメディアにリークし、これにより国労の影響力が削がれ、その分逆に動労の力が増した。 だが、三人組のリーダー格、井手は狡猾な動労の松崎と組むことの危うさを知っていた。それは過去、苦い経験をしてきたからだ。井手本人に聞くと、こう言った。 「ブルートレインの勤務で最初に騒ぎ出したのは、田町電車区で働く国労の組合員でした。『これからは俺たちも経営の合理化に協力し、ブルートレインには乗らない。だから、代わりに手当だけをよこせ』と言いだしたのです。国鉄の主流は国労に対し宥和路線をとっていましたから、われわれは独自に、朝日新聞の記者に事実を訴えました。松田君が中心になって動き、それを新聞に書いてもらった。すると、われわれの動きに松崎がパッと乗ってきたのです」 それはある種の松崎の策略だった。井手が続ける。