江戸のマネー 今に通じるおかねの教訓と庶民泣かせのサムライ・ファースト
されど武士第一の貨幣政策
金貨、銀貨、銭の3つの通貨(三貨制)については「江戸時代のおかね 金・銀・銭の3つの通貨はどうやって使い分けていた?」でふれましたが、江戸のおかねを考えるうえで、忘れてはならないのは「米」です。日々の生活では、米、金貨、銀貨、銭、それぞれの交換比率が変化していました。武家の給料である「禄」(家禄は世襲という基本給、これに役料が追加されますが役料は一代限りが基本)は米の単位で計算されていました。例えば加賀100万石などのように石高で示されることもありましたが、実際の取り分は四公六民(しこうろくみん、年貢の割合の一つで領主<武家>:農民=4:6)なので、実際は40万石の手取りとなります。実際は米で手元にわたりましたから俵で計算したほうがわかりやすいですね。 武家は基本は米で給与を受け取り、米を金貨に交換し、金貨を銭に両替し、銭で商品を買います。まず米高と金貨高がよく、あわせて銭安を望みます。一方、金遣い圏である江戸の問屋商人は、上方から銀貨建ての商品を仕入れ、江戸で銭を対価に売るので、金貨高・銀貨安・銭安を好みます。 お上の政策を受け入れるしかない庶民にとっては、米高、金貨高、銭安というインフレ局面は景気がよく名目所得も上がるなら好ましいけれど、逆に銭高になると銭の購買力はふえますが、銭高の背景にある銭不足は、庶民に多い、零細自営業者や日雇い労働者の所得の機会を減らしてしまいがちです。同時に借金暮らしの庶民にとって銭高は負債の実質額が大きくなる点でもつらいものです。とはいえ、庶民にとって、幕府の貨幣政策は武家第一であることに変わりはありません。 ファイナンシャルライター・瀧健 監修:井戸美枝 経済エッセイスト、社会保険労務士、ファイナンシャルプランナー。著書に『専業主婦で儲ける!サラリーマン家計を破綻から救う、世界一シンプルな方法』(講談社+α新書)、『知ってトクする年金の疑問71』(集英社)など著書多数。最新刊に『ズボラな人のための確定拠出年金入門』(プレジデント社、1200円+税)がある。