訳出スピードは「三割遅れもザラ」...それでも筆者が『スティーブ・ジョブズ』の訳を通常の二倍速で成し遂げられた「舞台裏」
ひとりでやり遂げられたワケ
そのため、「とにかくやってみて、進みが思ったより悪いなら、その時点で共訳者をたてるなどの対策を考えましょう」という話でスタートしたわけです。実際にやってみるとスケジュールから先行はできないけど、特に遅れることもなく、想定の範囲内くらいしかぶれなかったので、結局、最後までひとりで訳すことができました。 いろいろ工夫した、だからなんとかなった、みたいなことを書いていますが、ふつうならどう工夫してもひとりで訳すのは無理だったと思います。私は翻訳者としてかなり手が速いほうですが、それでも、正直な話、この本だからなんとかなったのであって、別の本だったら絶対に無理です。そのくらいきついスケジュールでした。 この本だからなんとかなったというのは、過去、ジョブズに関連する本を4冊も翻訳してきていて、いろいろな意味で蓄積があったからです。 そうでなければ、もうあと2.5ヵ月は必要だったでしょう。 同じペースで仕事ができたとして、蓄積がない分であと1ヵ月以上(事実関係の確認や関連の調べ物など、訳出以外にしなければならないことが大きく増える)。で、期間が延びれば無理が続かなくなるので、その分で1ヵ月前後。合計2ヵ月強は延びるはずです。 そういう意味では、これも点と点が結べた例かなと思います。
井口 耕二(翻訳者)