対北朝鮮政策は「失敗だった」 米国が取り得る3つのシナリオ
(2)米国が北朝鮮に武力行使
第2の選択肢は、物騒なことですが、北朝鮮に対する武力攻撃により核やミサイルの開発を止めさせることです。実は、このような方策は1994年に検討されたことがあり、クリントン大統領はペリー国防長官から「朝鮮半島で戦争が勃発すれば、最初の90日間で米軍兵士の死傷者は5万2000人に上る」という見通しを聞き、軍事力の行使は採用されなかったと言われています(ドン・オーバードーファー(菱木一美訳)『二つのコリア 国際政治の中の朝鮮半島』)。 現在でも武力攻撃、核の先制攻撃は選択肢になりうるか、トランプ政権は検討対象としている可能性がありますが、はたして現実的か疑問です。核兵器を使って大規模に攻撃すれば米国兵の犠牲を少なくできるでしょうが、北朝鮮の民間人の犠牲は膨大な数に上ります。また、韓国も戦争状態になり、甚大な被害が発生します。そうなれば、米国は国際的にも米国内でも強い批判にさらされるでしょう。それを考えると武力攻撃は選択肢になりえないと思います。
(3)米国が北朝鮮と交渉する
第3に、平和的に解決する選択肢として、米国が北朝鮮と話し合い、交渉して核開発を中止させる方法がありえます。交渉のポイントは「米国は北朝鮮の存在を認める。北朝鮮は核開発を中止し、既存の核兵器をすべて放棄する」であり、これが北朝鮮問題の本質です。 この交渉は米国しかできません。なぜなら、北朝鮮の存在を脅かす可能性があるのは米国だけであり、また、中国が米国に代わって北朝鮮の承認することなどありえないからです。中国自身による北朝鮮の承認は数十年も前に実現しています。 もちろん、米朝間の交渉は困難なものであり、成功する保証はありません。しかし、北朝鮮の非核化は、この承認と引き換えでない限り実現しないと思います。残された唯一の方法を試みることもしないで諦めるべきでありません。 トランプ氏は大統領になる前、北朝鮮と対話してもよいという、興味ある発言を複数回しました。しかし、北朝鮮のイメージは以前にも増して悪化しており、米国として対話に踏み切りにくくなっているかもしれません。 しかし、危険はますます増大しており、一刻の猶予もありません。米国は迂遠な方法に頼るのでなく、自ら北朝鮮の核・ミサイル問題の解決を急ぐべきだと思います。 米朝間の話し合いにより朝鮮半島の非核化が実現することは、日本にとっても極めて重要な意義があり、日本政府も話し合いを後押しすべきです。米朝関係の進展はわが国の拉致問題の解決にも資すると思います。
--------------------------- ■美根慶樹(みね・よしき) 平和外交研究所代表。1968年外務省入省。中国関係、北朝鮮関係、国連、軍縮などの分野が多く、在ユーゴスラビア連邦大使、地球環境問題担当大使、アフガニスン支援担当大使、軍縮代表部大使、日朝国交正常化交渉日本政府代表などを務めた。2009年退官。2014年までキヤノングローバル戦略研究所研究主幹