「派遣は麻薬と同じ」…給料が安すぎる国の「変わらない大問題」
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派遣は麻薬と同じ
派遣の難点は、契約期間を短くして契約を更新しないということで、短期間のうちに合法的に「クビ」にできることだ。 社会保険料は派遣元が負担するため、派遣先企業にとっては、社会保険料の負担から逃れられ、退職金を用意しなくて済むメリットが大きくなった。 簡単に人を切ることができるうまみを覚えた企業が増えていき、派遣期間は現在、1ヵ月から3ヵ月程度を繰り返し更新するようになっている。そして、少なくないケースで、派遣が悲惨な働き方と化していった。 派遣労働者は、派遣会社に無期雇用されているケースも含めると、2020年度で193万人となっている。派遣先が派遣元に払う派遣料金は8時間換算で平均2万4203円、派遣社員の賃金は8時間換算で平均1万5590円となっている(厚生労働省「労働者派遣事業報告書の集計結果」)。 雇用安定措置として、派遣で同じ職場で3年働く見込みがあり、本人が就業継続を希望する場合、派遣元企業には以下の措置をする努力義務がある。 まず、(1)派遣先への直接雇用の依頼をする。それが叶わない場合、(2)新たな派遣先の提供、(3)派遣元での無期雇用、(4)その他安定した雇用の継続を図る、ことである。 2020年度は対象派遣社員108万3024人のうち、「同じ職場での派遣で3年になることが見込まれ、その期間が終わっても継続して働くことを希望する人」が9万2223人。そのなかで直接雇用の申し込みがあったのは1万9521人で、実際に派遣先に雇用されたのは7796人しかいなかった。これが現実だ。 非正規雇用のなかで派遣社員が占める割合は約6.8%、労働者全体では約2.5%で、そう多いとはいえないものの、職場のなかに短期間のうちに労働者を「ポイ捨て」する、合わなければ「チェンジ」する、という感覚を浸透させた一因になったことには違いない。 派遣社員への取材で、当時20代だった女性はいくら仕事をしても、決して賃金が上がることはなかった。自分の働き方と会社との関係について、「尽くしても、尽くしても、報われない。まるでダメな男と付き合っているよう」と例えて、苦笑いした。 大労組の幹部は「派遣は麻薬と同じ。悪いと分かっていても、一度そのうま味を覚えてしまったら、やめられない」と話していた。
小林 美希(ジャーナリスト)