マイナーチェンジした「Kindle」、2024年モデルの進化ポイントをチェックしてみた
「Kindle」(第11世代、2024年モデル)は、Amazonが販売する6型E Ink電子ペーパー搭載の電子書籍端末だ。従来と同じ「第11世代」という位置づけながら、フロントライトの明るさ向上、速度の向上、5GHz帯への対応といった改良が施されている。 【画像】製品外観は従来モデルとまったく同じ。2022年発売の従来モデルも同じ「第11世代」のため、両者を判別するためには発売年(2024年)を併記しなくてはならない こうした進化の一方で、同時発売の「Kindle Paperwhite」と同様に価格は大幅に引き上げられており、ユーザーとしては気になるところだ。今回は筆者が購入した実機をもとに、電子書籍ユースでの使い勝手を従来モデルおよび同時発売の「Kindle Paperwhite」と比較しつつチェックする。 ■ 新たに5GHz帯に対応。価格は大幅に引き上げ まずは従来モデルとの比較から。 この表からも分かるように、画面サイズや解像度など、表示まわりのスペックは変わっていない。ボディサイズや重量も従来と変わらず、外見ベースではまったく同一といって差し支えない。判別しやすさという観点ではあまりよくないのだが、従来と同じ「第11世代」を名乗りたくなるのも理解できる。 興味深い違いとしては、Wi-Fiが従来の2.4GHz帯に加えて、5GHz帯をサポートするようになったことが挙げられる。いったんダウンロードして読む電子書籍端末の場合、こうした通信方式の違いが使い勝手に大きな影響を与えることは考えにくいが、家庭内のWi-Fiを5GHz帯で統一している場合などはメリットもあるだろう。 また、従来は「数週間」とやや曖昧だったバッテリ持続時間は、「最大6週間」と明確化されている。ちなみに同時発売のKindle Paperwhiteは「最大12週間」なので、両者の差別化ポイントの1つということになる。 なお、従来存在した広告ありモデルは今回はラインナップから省かれ、広告なしモデルに一本化されている。同時発売のKindle Paperwhiteも広告ありモデルは廃止されており、Kindleシリーズ全体で方針が変更になったと見られる。 一方で気になるのは価格で、従来の1万2,980円から1万9,980円へと価格が大幅に上昇している。世代がもう1つ前、第10世代のKindleは広告ありモデルが8,980円と1万円台の大台を割っていたので、解像度の向上や内蔵ストレージの増量はあるにせよ、価格は2倍以上に膨れ上がったことになる。 ■ 従来モデルとの差はわずか。フロントライトの違いも軽微 セットアップの手順は従来通りで、本体上で行なう手順に加えて、スマホのKindleアプリを使ったセットアップ手順も用意されている。こちらだとAmazonアカウントやパスワードなど本製品のソフトウェアキーボードを用いての文字入力を省略できるので、セットアップがぐんと楽になる。スマホにKindleアプリをインストール済みであれば、積極的に使うことをおすすめする。 さて実機に触れてみての印象だが、ボディサイズや画面サイズはもちろん、表面の質感についてもそっくりだ。KindleやFireはモデルチェンジのたびに、背面の質感が変わったり、あるいは刻印されるロゴの光沢の加減が変わったりと、写真では分からない微妙な変更が行なわれることもしばしばだが、本製品はそうした違いも見当たらない。 従来モデルとの違いとして挙げられているのがフロントライトの明るさで、従来よりも最大25%明るいとのことだが隣に並べてみてようやく分かる程度で、しかもほんの誤差レベルだ。本製品を2022年発売モデルと見分けるためには、設定画面を開いてモデル名を見るのが、実質的に唯一の方法となる。 なお多少気になったのは、本体の空き容量が従来モデルに比べて2GB弱も少ないことだ。今回の試用時点では両者のファームウェアのバージョンが若干ずれており、これらを統一すれば差が縮まる可能性もあるが、2GB弱も違うとなると無視できない。従来モデルから本製品へと買い替えた場合、ライブラリの一部がはみ出す可能性があるので気をつけたい。 ■ 画面の切り替えが高速化。ハンドリングしやすさは健在 では電子書籍ユースについて見ていこう。サンプルには、コミックはうめ著「東京トイボクシーズ 1巻」、テキストは夏目漱石著「坊っちゃん」を使用している。 解像度は300ppiということで、表示性能は従来モデルと同様。上位のKindle Paperwhiteとも横並びだ。6型というコンパクトなサイズゆえ、雑誌など大判コンテンツの原寸表示は難しいが、表示のクオリティそのものは、どのようなコンテンツでも特に支障はない。 ただし前回紹介したKindle Paperwhiteは、7型という画面サイズゆえ、本体を横向きにしてコミックを見開きで表示してもスマホ以上のページサイズを確保できたが、本製品ではスマホ以下のページサイズになってしまい、あまり実用的ではない。見開き表示を行なうのであれば、本製品ではなくKindle Paperwhite以上を選んだほうがよいだろう。 動作速度はどうだろうか。従来モデルに比べてページめくりが高速化されたとのことだが、比較した限りでは違いは感じられない。そればかりか従来モデルに比べて、すばやいページめくりではタップが空振りするケースが稀にみられる。上位のKindle Paperwhiteよりも遅いのは致し方ないとして、空振りが起こるのはやや気になる。 もっとも、ページをめくる以外の操作、具体的にはホーム画面からライブラリやストアを開いたり、本を開いたり閉じたりするといった画面を切り替える操作では、従来モデルよりも明らかに高速化されている。ページめくりで空振りが起こるのはかなり極端な操作においてのみなので、トータルでは従来モデルに比べてプラスと見てよいだろう。 【訂正】初出時に間違った動画を掲載していたため差し替えました。お詫びして訂正させていただきます。 さて本製品で特筆すべきなのは軽さだ。158gというのはKindleシリーズの過去の6型モデルの中でも最軽量で、かつ現行のほとんどのスマホよりも軽いときている。過去の6型モデルは200gを超える製品もあったので、この軽さはやはり目立つ。 この軽さゆえ、バッグの中に放り込んだままにしておいてもほとんど気にならない。旅行に行く時などに、使うか使わないか分からないが一応荷物の中に入れておこう、という使い方ができるのはユーザーにとってありがたい仕様だ。 また7型の「Kindle Paperwhite(第12世代)」は、そのサイズの大きさゆえボディを片手で握るのがかなり難しいのに対して、本製品であれば片手でも保持しやすく、不安定な姿勢でのページめくりも容易だ。特にテキストコンテンツの場合、画面サイズは必ずしも大きくなくて構わないので、ハンドリング重視で本製品を選ぶという手はありだろう。 一方で、テキストではコミックを表示する場合は画面が小さいと感じることもしばしばなのだが、そこで知っておきたいのが設定画面にある「余白を狭める」という機能だ。 これをオンにすると、コミックの上下の余白を検出し、それらをカットすることでページをぎりぎりまで拡大表示してくれる。ページの端、いわゆる「断ち切り線」ギリギリまで描かれているページについては効果はないが、たいていのページは拡大表示されるので、本製品でコミックを読む場合は試してみることをおすすめする。 ■ 大幅な値上がりがネック。従来モデルを選ぶのもひとつの手? 以上のように、本製品は従来モデルと大きな違いはなく、実質的にはマイナーチェンジモデルということになる。本製品の上位にあたる7型のKindle Paperwhiteは、ワイヤレス充電対応の上位モデルや色違いなど選択肢が複数あるのに対し、本製品は派生モデルはなく容量も16GB一択なので、ある意味で選びやすい。片手で持つことにこだわる人にはおすすめだ。 一方で気になるのは価格で、従来の約1.5倍以上と驚くほど値上げされている。セールでもう少し安くなることが期待できるものの、およそ1万円前後という従来の相場感が通用しなくなっており割高な印象は強い。機能自体の違いはないだけに量販店でもし2022年モデルの在庫が残っていれば、そちらを調達するのも1つの手だろう。 ところで最後になったが、この無印のKindleの位置づけが従来とは変わりつつある点は留意しておく必要がある。従来はKindle Paperwhiteと比べて解像度も低く、ストレージ容量も少ないエントリーモデルという位置付けだったが、現在は解像度はKindle Paperwhiteと横並びでストレージ容量も同じ、さらにはフロントライトも追加され機能自体はKindle Paperwhiteに肩を並べつつある。防水機能など一部の機能がないだけだ。 新たに投入されたカラーE Inkモデル「Kindle Colorsoft」(日本未発売)も含めて考えると、もはや差別化ポイントは画面のサイズ、およびカラーか白黒かであって、解像度によってモデルごとの差をつける必要はないということだろう。こうしたことから、この無印のKindleをエントリーモデルと呼ぶのには少々実態が伴わなくなりつつあることは、知っておいたほうがよさそうだ。
PC Watch,山口 真弘