【楽天】選手プロデュースメニュー開発秘話 小郷裕哉の意外な提案で“思い出の味”を忠実に再現
“グルメ天国”で、いただき! 楽天が本拠地にする楽天モバイルパーク宮城の球場グルメは、12球団屈指の充実度を誇る。楽天野球団・マーケティング本部で飲食担当のリーダーを務める柴田麻美さん(37)に、約60種類ある選手プロデュースメニューの開発秘話や仕事にかける思いなどを聞いた。主食、デザート、ドリンク…。今季のチームスローガン「いただき!」を思わず口にしたくなるような、あなたのお気に入りの一品は? 【取材・構成=山田愛斗】 【写真】小郷裕哉が少年時代から食べていた“思い出の味” ◇ ◇ ◇ 楽天球団職員の柴田さんがリーダーを務めるグルメチームの“守備範囲”は広い。選手プロデュースグルメの開発、スタンドでビールやソフトドリンクを販売する売り子のサポート、球場内の常設約80店舗の販売データ分析、どうすれば売り上げが増えるかを各テナントと作戦会議するなど業務は多岐にわたる。 「グルメチームのテーマは『おいしいは楽しい』なんですよ。野球観戦しに来た方には、野球を見るだけじゃなくて、おいしいグルメも一緒に楽しんでもらって、観戦体験の1つとしてグルメがお客さまの楽しみにつながるようにという思いで日々働いています」 選手プロデュースメニューの開発は飲食担当の腕の見せどころでもある。アンケートを作成し、選手に「商品化したいメニューは」「好きなグルメは」などヒアリング。その反応をもとに仮商品をつくり、試食してもらうのが大まかな流れ。味や具材を変えたい、もっと映えるようになど要望を聞き、複数回つくり直すこともある。「これでいきましょう」と選手の許可が出て初めて商品化される。 柴田さんは大手コンビニチェーンを経て、19年に楽天野球団へと転職した。入社前は「プロデュースメニューは名前を借りるだけで、選手が半分知らないままやってるのでは」とのイメージだったが、実際は違った。選手から「こういうのをやりたい」と積極的にアプローチしてくるケースも多く、グラウンド同様の全力プレーが心強いという。 伊藤裕季也内野手(27)は昨年の春季キャンプから「サムギョプサルをやりたい」と熱望。だが、当時は球場内に本格的な韓国料理を提供できる店がなかったため、泣く泣く断念していた。今年から韓国料理店がオープンし、念願かない「伊藤裕季也のサムギョプサル丼」が誕生。ご飯にごま油と韓国のりを混ぜ込むなど「本格的な味に」という伊藤裕のこだわりが詰まった1杯だ。 村林一輝内野手(26)は見栄えを重視した。「インスタに載せたいとか思ってほしい」と背番号66をウインナーとスライスしたゆで卵で再現。カラフルな「村林一輝のバヤシライス弁当」は見て楽しい、食べておいしい“映えメニュー”となっている。 今江敏晃監督(40)は2種類の弁当をプロデュースする。新幹線での遠征時は鳥づくしの弁当を好んで買うそうで、照り焼きチキン、つくね串などが入った「今江敏晃のとりづくし弁当」を考案。担当者から鳥そぼろを使ったメニューを提案されたが、新幹線での実体験から「そぼろはポロポロこぼれて食べにくいので固形のものに」とスタンドでの食べやすさにこだわった。当初は1種類の予定も、大好きな宮城の郷土料理はらこ飯を監督自らリクエストし「今江敏晃のはらこめし弁当」もラインアップに加わった。 今年から販売するプロデュースメニューの開発秘話として、柴田さんが特に印象に残っているのが「おごちゃんを育てたうどん」だ。オフのタイミングで小郷裕哉外野手(27)に「元気などんぶり系のご飯ものを増やそう」と伝えると、意外な提案があった。地元岡山に小学生の頃から通ううどん店があり「仙台の人にも食べてほしいんですけど、そういうのはできないですか」と熱い思いをぶつけられた。 柴田さんは早速、商品化へ動いた。岡山のうどん店に電話をかけ、小郷の思いを伝えるとともに「うどんを使わせてもらえませんか」と交渉。岡山からうどん、つゆを仙台に直送する事業スキームを確立し、新メニューにすることに成功した。好きなトッピング1、2位のかしわ天、なす天を乗せているのもポイントで、小郷が少年時代から食べていた“思い出の味”を忠実に再現した。 プロデュース商品で根強い人気を誇るのがバニラ、チョコ、ストロベリー、ずんだ、プリンの5種類からなるシェイクシリーズだ。島内宏明外野手(34)が「小さい頃からシェイクが大好きで、シェイクはみんなうれしいじゃないですか」と20年に提案し、実現した。シェイクは専用マシンが必要で、商品化のハードルは高かったが、島内の「じゃあ僕がマシンを買います」という熱意に背中を押され、球団でマシンを購入。今では球場の定番メニューに定着した。 パドレスに移籍した松井裕樹投手(28)の“後継者問題”もあった。プロデュースしたチョコシェイクは、自宅に複数のサンプルを持ち帰り、家族の意見も取り入れ商品化した自信作。移籍前に「僕のチョコシェイクを誰かに引き継いでほしい」と依頼されて人選を委ねたが、しばらく音沙汰なし。開幕直前にチームスタッフを通して「渡辺翔太に引き継ぎます」と米国から連絡があったという。柴田さんは「社交辞令かと諦めてたんですが、覚えてくれていてうれしかったですね」と笑った。 球場内はスイーツも充実している。試合後半は客足が鈍くなるという各店舗共通の課題があり、小腹がすく頃の6回表からお得感を打ち出した「500円スイーツ」を販売。「ミニヘルメットのストロベリーホイップクリーム」「大判焼き」など種類は豊富だ。 コロナ禍を意識した新グルメもある。「シェアする概念がなくなってきて、ワンハンドで食べきれるメニューを」と22年から「イーグルス豚まん」を販売。初年度の焼き印は球団ロゴ1種類も、現在は今江監督、田中将大投手(35)、則本昂大投手(33)、早川隆久投手(25)の似顔絵が入ったものにバージョンアップした。 スタンドでビールなどを販売する“球場の顔”売り子も陰から支える。「元気? 髪形かわいくなったねとか、タレント事務所のマネジャーみたいなこともやってますね(笑い)」と柴田さん。日々の何げないコミュニケーションも大切にする。「売り子は球場内でお客さまの真横に唯一行って接客できる存在です。笑顔で楽しく働ければ、お客さまのワクワクする観戦体験の1つになると思っています」と力を込める。 売り子のモチベーションアップは重要なミッションだ。今年は新たな取り組みとして「売り子名鑑」を作成。カメラマンに宣材写真を撮影してもらい、ニックネーム、My HERO(好きな選手など)、目標杯数などを掲載している。また、売り子の控え場所にはパウダールームを新設。「若い女の子が地べたに座り、お化粧を直している姿を見て『今日もバイト楽しい』って思ってもらえるような環境をつくりたい」と実現した。 球場グルメを通した“おもてなし”は球界トップクラスだ。 「他球団と比べても、かなりグルメが充実していると私は思っています。好きな選手は人によってさまざまなので、できるだけいろんな選手のいろんなメニューを出して、幅広く楽しんでほしいですし、選手とファンの皆さんをグルメでつなげられるように頑張りたいですね」 「おいしいは楽しい」に終わりはない。