「3分の2」とはいえ公明は慎重姿勢 憲法改正の動きは加速するのか?
“改憲勢力”の3分の2議席獲得が取り沙汰された今回の参院選。結果をどう読み解くか。政治学者の内山融・東京大学大学院教授に寄稿してもらいました。 【写真】参院選特番 池上彰氏は安倍首相にどこまで切り込めたのか?
※ ※ 7月10日に行われた参議院議員選挙では、自民・公明の与党が合計70議席と改選議席の過半数を獲得した。与党におおさか維新の会と日本のこころを大切にする党を加えた4党は憲法改正に積極的な姿勢を示しているが、これら4党の非改選議席と改憲に積極的な無所属議員の議席を合わせると、憲法改正の国会発議に必要な3分の2の議席に達した。こうした結果が何を意味するか考えてみたい。
安倍政権は信任されたといえるのか?
安倍首相は、6月に消費税増税を再延期する旨を表明した際、再延期の判断についてこの参院選で「国民の信を問いたい」と述べていた。一般的には衆院総選挙で使われる「信を問う」という言葉をあえて使ったわけだが、今回の結果は安倍政権が信任されたことを意味するといえるだろうか。 与党が改選議席の過半数を獲得した以上、安倍政権が「信任された」と主張するのは当然であろう。しかし、この選挙結果が、与党の政策すべてに対する信任を示すのか、あるいは安倍政権への白紙委任を示すのかについては、慎重な検討が必要である。 今回の選挙で与党がもっとも強調した争点は経済政策であった。与党からすればアベノミクス継続が支持されたということになるだろうが、実際のところ、経済政策については与野党間でそれほど大きな違いがあったわけではない。野党も消費税増税再延期には反対していなかったし、程度の差こそあれ与野党とも、雇用や社会保障、子育てなどを重視する姿勢を示していた。 また、消費増税を決めた「社会保障と税の一体改革」においては、増税分の収入を社会保障の充実に向けることとなっていた。ここから考えれば消費税増税延期は社会保障充実の延期を意味するはずだが、与野党ともこの点については言葉を濁しており、社会保障充実の財源をどこから調達するのかも曖昧であった。 このように考えれば、今回の与党勝利は有権者がアベノミクスを積極的に信任した結果であるとは言いがたい。むしろ有権者は、他に有効な選択肢がないため現状維持を選ばざるを得なかったと思われる。いわば消極的選択の結果だったのではないだろうか。