NHK『虎に翼』が起こす不思議な現象とは?10年以上続く“ネット朝ドラ考察文化”の強さ|瀧波ユカリさん
あるあるではない「前向き」
昨今は、公式アカウント(@asadora_nhk)もそれを見越しているかのようで、視聴者は知り、理解することで、翌日の放映への期待を高めるという仕組みができている。 「ドラマのなかで寅子と学友たちが同じ志を持ち高め合っているように、視聴者たちも“考察”をとおして意見を交換し、学び合っている……そんな不思議な現象が起きている、というのは言い過ぎでしょうか。でも、そんな感じがしています」
超人的なメンタリティ
4月第3週現在、寅子は大学の女子部で、新入生勧誘のための法廷劇に挑戦している。常に前向きな主人公は“朝ドラあるある”だが、寅子のそれは若干、性質を異にしているようだ。 女性が法律を学ぶと決めた、血を流す覚悟もある。でも、それで死ぬとは思っていない。自分の可能性を信じているがゆえの、前向きさだ。 「寅子はまわりにどう思われるかということを、ほとんど気にせずに生きているように見えます。ある意味、そこだけは作り込みというか、フィクションの要素が強いのかもしれません」 と分析する瀧波さん、そこから目線を現代の女性たちに移す。 「女性がそういうメンタリティを持って生きることは、現代であったとしても非常に稀有(けう)なことだと思います。でも現実的にはそこまで振り切っては生きられないからこそ、超人的なメンタリティを持つ寅子を視聴者は安心して見ていられる、ということもあるのかなと思います。 ウチでは中学生の娘も視聴していますが、この“どう思われるかをほとんど気にしないメンタリティを持つ女性主人公”は、彼女にとってすばらしいロールモデルになっていると思います」
名もなき女性たち
人からどう思われるかよりも、自分がどうしたいのかが大事。相手が家族でも、自分を疎(うと)ましく思っている同級生でも、目上の男性でも、寅子は率直にものを言う。 「それが創作物であったとしても、“どう思われるのかなんて気にしなくていい”という力強いメッセージを若い世代は特にまっすぐに受け取っているはずです。それこそが彼女たちの未来への可能性を広げていくと思います」 もうひとつ、瀧波さんのポストを紹介しよう。 〈聖橋((編集部注:お茶ノ水付近のほかの橋の可能性もあります))の上で、重い荷物を背負った老婦人(2回は出てきたはず)、思い詰めた様子で橋の下を見つめる女性…… 「あれ?なんか気になるな」くらいの匙加減で、ふつうは「モブ」と呼ばれる存在の女性たち、女性ひとりひとりの人生が視界に入るように作られている。こんなドラマあっただろうか〉 ――2024年4月5日