五輪はひとりでは戦えない。メダリストに不可欠な能力とは? 【松田丈志の手ぶらでは帰さない!~日本スポーツ<健康経営>論~ 第4回】
また、選手には日々、体にも心にもさまざまなストレスがかかり、孤独を感じる瞬間もあります。チームメイトやスタッフ、応援してくれる人たちとコミュニケーションをとることでストレスや孤独から解放され、心の安定にも繋がります。 2012年のロンドン五輪では、私は競泳日本代表チームのキャプテンでしたから、自分だけでなく、どうやったらチームとして結果を出せるのかを考え実行しました。チームの結果を最大化するには全員がそれぞれの持ち場でベストを尽くす必要があります。かつて自分がそうだったように、五輪初出場の選手は右も左もわからない状態ですから、選手ミーティングを何度も開いて五輪経験者の話を事前共有し、少しでも大会本番のイメージが湧くようにしました。 日本の水泳史を紐解くと、過去には五輪の舞台で結果が出せない時期もありました。民間企業であるスイミングクラブや大学など、各所属での強化を主体として挑んだ大会では所属の垣根が生まれ、経験や情報の共有が十分にできず、互いに切磋琢磨する関係性も築けず、日本代表チームとしての一体感が醸成されなかったそうです。結果的に本番で緊張やプレッシャーからタイムを落とす選手が多く、結果も伴いませんでした。その反省から所属の垣根を取り払い、ひとつのチームで戦うことが日本競泳界の伝統となっていきました。 私が出場した4つの五輪では、「センターポールに日の丸を」というチーム目標を掲げ、みんなで日本の競泳をもう一度強くしようという気持ちで一致団結していたと思います。前回の東京五輪2020大会はコロナ禍での開催で、感染予防対策による行動制限によりチームで過ごす時間が限られ、チーム力を醸成するだけの機会を持てませんでしたが、今年のパリ五輪こそは日本競泳陣伝統のチーム力を発揮してほしいところです。 企業でも協会でも、人が集まれば所属や部署で縦割りとなり、垣根が生じる可能性はありえます。共通の目標を掲げ、垣根を取り払い、課題を明確にして議論し、アクションプランを実行することができれば、個人としてもチームとしても理想に近づけます。 限られた時間とチャンスの中で成果を出さなければならないのは、スポーツだけでなく仕事でも人生でも同じです。そもそも我々の人生が有限ですから、その限りある時間の中で自分の理想をつくり上げていかなければなりません。自分の努力にプラスして、周りから応援され、周りの力を自分の力に変えられる人が成長のスピードを上げることができ、自分の理想に近づくことができるのだと思います。 文/松田丈志 写真提供/株式会社Cloud9