「出張中は残業代が出ない」は本当か? (桐生由紀 社会保険労務士)
「出張先で仕事を終えて帰宅したら深夜でした。残業代は出ないと言われました。出張で遅くなったのに納得できません。出張の移動時間は労働時間にならないのでしょうか?」 筆者は同様の相談を何度も受けてきました。出張中の残業代については経営者からも度々質問されます。 出張には日帰りもありますが、遠方の場合、前日の夜から宿泊して翌日から出張先で仕事をする場合もあります。通常の通勤と違い、出張は移動時間・拘束時間が長くなりがちです。頻繁になると出張の負担は重いものです。 出張時の移動時間は労働時間にならないのか? 出張中はなぜ残業代が出ないのか?と疑問を持つ方も多いのではないでしょうか。 雇用の専門家である社労士の立場から、出張時の移動時間や労働時間の考え方について、法的な視点で考えたいと思います。
■そもそも「出張」と「外出」の違いはなにか?
出張時の移動時間や労働時間について考える前に、出張と外出の違いを整理してみましょう。 業務上で少し遠方に外出する場合「これは出張なのか通常の外出なのか、どっちだろう?」と疑問に思ったことはありませんか? 特に、出張で日当を支給している会社の場合、出張か外出かは日当の支給有無に関わるため、従業員にとっても大きな違いです。 実は、出張と外出の境目は曖昧で法的根拠はありません。企業は就業規則などで出張規定を定め、出張と外出を区別しています。法的な基準はありませんので、各企業の独自ルールです。 何をもって出張とするかは企業によって定義が異なりますが、下記のような条件を定めていることが一般的です。 ・宿泊条件:宿泊を伴う ・移動距離条件:勤務地や自宅から100kmを超える距離の移動 ・移動時間条件:勤務地や自宅から目的地までの移動時間が2時間以上かかる そのほか、新幹線や飛行機など特定の移動手段を出張の条件に加えている企業もあります。 一方、会社の業務を行うために必要に応じて外出することを「社用外出」と言います。例えば、クライアントとの会議や商談のための訪問、銀行の窓口業務、社外イベントへの参加などです。比較的近距離で、宿泊は伴わず、同日中の短時間で済むことが多いです。 出張も社用外出も、会社の業務を行うための外出であることには変わりなく、社用外出のうち出張の条件を満たす外出が出張となります。 まとめると、 ・出張と外出に法的な境目はない ・出張の定義は企業によって違う ・社用外出のうち出張の条件を満たす外出が「出張」 となります。