「プロフィール大嘘やん。虚偽の申告やん」知ってしまったがゆえに変わったものと変わらなかったもの【坂口涼太郎エッセイ】
そういえば、思い当たることはあった…
そういえば、このところ衣装合わせで衣装さんが用意してくださる洋服が総じてぱっつぱつで身動きが取れないことが多かった。そら58キロの人間の為に用意したのに68キロの坂口が到着するんやから布余らへんわ。ぱっつんぱっつんで、かがむと「北斗の拳」のように服が肉の隆起によって、ぱーんと散り散りの粉々になって雲散霧消するのではないかとひやひやして座られへんわけやわ。ツイード生地のスーツで鬱血しそうになって視界が白くなるわけやわ。 ははーん辻褄が合いました。いくら食べても太りませんてへぺろ期はとっくに終末を迎えているそうですわ。そら食べたら体重は増えますわ。世界の真理ですわ。皆様ご存知でしたか? 食べたら体重って増えるんですってよ? 翌日からの公演では自分の体重が68キロだと知ってしまった故の恐怖というか、お芝居をしながら脳裏に「俺はいま68キロでこの動きをしている。68キロで椅子の上から跳び降りたり、跳び乗ったりしている。椅子は果たして大丈夫なのか。昨日までは58キロのつもりで乗っていましたけれども、実際には68キロでした。虚偽の申告をしていてすみませんでした。どうですか? 耐えられますか? 10キロ増でも耐えられそうですか? もし、大破しそうなら早めに言っていただけるとありがたいです。申し訳ございませんでした。ものすごく慎重に乗らせていただきます」というような躊躇と慎重さと、「10キロ増で俺はやってる」という、謎の感動を併せ持ち、今日も私は摂取したカロリーをさほど燃焼しているわけでもないのに滝になる始末。 でもね、別にええねん。体重が増えるイコール太ったじゃないねん。なんなら以前は憧れていたむち、もちという感触を私はいま手に入れているから。カーダシアンをして、きっとおしりに貯蓄されているのだと思う。だから、体重計とは一定の距離を置いて、旅では変わらずなまはげ化して、おなかが出てきたらその分の膨らみをカーダシアンすることによって尻に移す。そうやって生きていくよ。そして、銭湯や温浴施設の小さな四角形の上で、何度だって数字とともに固まる。体重計に乗らないけれど、乗ったら固まる人間として生きていく。 そうマネージメント部に宣言したら「それにしてもちょっと増えすぎている」ということで、議論に懇願を重ねた結果、公式プロフィールには「63キロ」と記載することになりました。 それ以来、体重計とはより一段と距離をとるようになってしまったことをどうか懐が宇宙空間のように広いどこかの神よ、お許しください。 文・スタイリング/坂口涼太郎 撮影/田上浩一 ヘア&メイク/齊藤琴絵 協力/ヒオカ 構成/坂口彩
坂口 涼太郎