カリスマ経営者ほど我が子がバカに見える/中小企業の「第2創業」、親子の対立を超えるには~入山教授インタビュー全4回の3回目
◆最もまずいのは「老老承継」、親の潔さが必要
――会社を子供に譲るのはそんなに簡単ではないのですね。 承継が難しいから70歳、80歳になるまで引っ張ってしまうことがあります。 そうなるとお父さんは本当に体が弱ってボロボロになり、経営ができなくなる。 そこでようやく子供に継がせようとしても、子供も60歳近くになっている。 50代後半の子供への「老老継承」が最もまずい。日本では結構、老老継承が起きていて、なんとかしないといけません。 ――ではどうすればいいのでしょうか。 譲る覚悟がものすごく重要です。 これは何の決まりも、ルールもないので、本人の胆力があるかないかが決め手です。 本人がもう腹をくくって譲るしかない。 うまくいく最高のパターンは、親が奇跡的にいい人で、腹をくくって、譲れるパターンです。 ジャパネットHDや西松屋などは、お父さんがそういうパターンです。 ジャパネットHDは、創業者のカリスマ経営者、髙田明さんが息子の旭人さんと「チャレンジデー」という新プロジェクトの実施について対立しました。 幹部社員に採決を取ると、明さんが旭人さんに圧倒的な大差で負けました。 その結果を見て「息子は成長したな。新しい商売のスタイルを息子に学んだ」と明さんはパッと社長をやめましたが、普通はできないことです。 そんなお父さんは本当に大したものです。 2回目の西松屋もすばらしい。とにかくお父さんが潔く引く。これが一番大事です。 ――それができない場合はどうしますか? 大変失礼な言い方で申し訳ないのですが、お父さんが亡くなるのが一番ですね。 日本の平均寿命は世界一で経営者も長生きします。 そうすると年老いても経営権を握ってしまいます。 お父さんが早く亡くなって子供が継がざるを得ないというパターンが実は事業承継にとってはいいのかもしれません。 これにはお父さんが急逝して、突然、継ぐというパターンだけではなく、いろんなパターンがあります。 大阪に住宅設備会社のサンワカンパニーという会社があります。 ここは現在の社長の山根太郎さんのお父さんが創業者です。 その息子の太郎さんは会社を継ぐ気が全然なく、伊藤忠商事に入社しました。 若い頃からバリバリ働き、世界中を駆け巡って仕事をしていたのです。 ところがお父さんが急に病に倒れ、もう余命いくばくもないという状況に陥りました。 そこで継ぐ気がなかった太郎さんにお父さんは「継いでくれないか」と話され、太郎さんも継ごうと意を決したわけです。 その後、お父さんが亡くなられて、スムーズに事業承継が進みました。 このようなパターンが比較的うまくいくようです。