関東圏の高校生たちによる演劇の祭典が東京・足立区で開催されました。このイベントに、地元を代表して中学生の選抜チームが出場しています。高校生たちに交ざって奮闘する生徒たちの姿を追いました。 8月15日、足立区の「シアター1010（センジュ）」で開催された「高校演劇サマーフェスティバル」は、関東地方などの各自治体から推薦された高校演劇部が集まる、およそ30年続くイベントです。この舞台に、高校生たちに交ざって、足立区の4つの中学校から集まった選抜チームが参加しました。 彼らが演じる物語は、転校生の「ハヤナミ」を中心にクラスが演劇を通して一つになっていく青春ストーリーです。7月20日の夏休みから本格的に始動した生徒たちでしたが、別々の中学から集まったメンバーということもあり、練習を始めた頃は円滑なコミュニケーションが課題でした。選抜隊に参加したメンバーは「いろいろな学校から来ているのは新しい出会いがあって楽しいが、初めて会うから緊張してなかなかしゃべれなかった」「個々に塊で動いてしまうこともあって、最初は全員で動くことが難しかった」などと振り返ります。 そんなチームを引っ張るのが、劇中でもクラスをまとめる主人公役の福島美織さん（第十四中学・3年）です。別々の中学校の垣根をなくすため、メンバーの中心となって積極的にコミュニケーションを図っていきます。福島さんについてメンバーは「みんなをまとめて、正しい方向に導いてくれるいい隊長」「リーダーからの指導もあって、どんどんまとまっていくのが感じられてうれしかった」などといいます。 劇のストーリーと同じようにリーダーを中心にまとまったチーム。本番に向け、順調に見えましたが、実際の舞台でのリハーサルを行った本番前日…。さまざまな準備に時間を取られ、通しの稽古をすることができず、福島さんは一抹の不安を抱えていました。福島さんは「あしただよね…。本当にやばいなっていう危機感があります。でも頑張るしかない」と語りました。そんな危機感を口にするリーダーを励ましたのが、3年間演劇に励んできたチームのムードメーカー、森下真和人君（第十四中学・3年）でした。福島さんは森下君について「十四中の3年生はこいつしかいないので。やっぱり存在はでかいんだなって思いますね」と話します。2人が通う第十四中学の3年生の演劇部は8人ですが、受験を控える夏ということで、今回出場する3年生は2人だけです。お互いが励まし合うことで不安を振り払って本番に臨みます。福島さんが「3年間の集大成だね、どこまで出せるかだね」と言うと、森下君は「出せるかだね」と相づちを打ち、福島さんは「最後って聞くと涙目になっちゃうよ」と語りました。 そして迎えた本番当日──。地元・荒川の土手で成功祈願の円陣を組み、気合を注入です。本番直前、これまでチームを気丈に引っ張ってきた福島さんでしたが、顧問からハグで励まされ、あふれる思いを胸に、幕が上がりました。4つの中学生たちが集まった最初で最後のチームで、ひと夏を懸けて挑んだ大舞台は、最高のパフォーマンスで観客を魅了しました。 舞台上で感極まる福島さん。惜しみない拍手がチームに向けられ、舞台は終演しました。森下君は「最高の夏にもなったし、練習してきたことが無駄ではなかった。素晴らしく良かったと思います」と語り、福島さんは「すごく大きい舞台を終えて、みんな笑顔でうれしい」と笑顔を見せました。そして「自分の人生の中ですごく大きい思い出になったと思う。演劇は“自分ではない誰か”になれて、自分ではできないこともその役だったらできて、自分の可能性が広がっていく感じがします」と語りました。 生徒たちにとって決して忘れられないひと夏の青春が幕を閉じました。