5000人と分身ボットで会話、顔写真1枚でマッチング…“AIで変わる恋愛”の形が話題に
Tinder+生成AIで最強のマッチング
世界最大のマッチングアプリ・TinderやOKcupidなどを配下に持つMatch Groupも、2023年9月に生成AIの活用方針を発表している。すでにOKcupidではChatGPTが生成した質問への回答をマッチングに利用し始めているし、Tinderでもプロフィールを自動生成する機能を開発中だという。 さらに、自分の代わりにTinderのマッチング相手と会話する分身のようなボットを開発して数千人とコンタクトを取り、結婚相手を探し出す猛者も現れた。ソフトウェア開発者のAleksandr Zhadan氏は2022年、自分専用のTinderボットを構築し、一定条件を満たす女性への「いいね」操作から簡単な会話、デートの日程調整までも自動化した。その結果5,000人以上の女性から最後の1人へと効率良く絞り込みができ、その女性とめでたく婚約に至ったそうだ。 Zhadan氏のTinderボットは今のところ一般公開されておらず、意図した通りに動作させるには彼自身もかなりの労力が必要だったと語っている。なので今すぐ誰もが数千人の中から運命の人を見つけられるわけではないが、少なくとも技術的には可能であることが実証された。
いっそAIでいいのでは?と思わせる「Replika」
いかにAIを使って人間同士の出会いを効率化しても、相手が人間である限り、理想を押し付けることは難しい。であればAIを使って選定の負担を軽減するよりも、もはやAIと関係を持ったほうが楽なのではないか。そんな発想を実現できてしまうのが「Replika」だ。 Replikaは3Dアバターとのチャットアプリで、特徴的なのはユーザーとアバターそれぞれのプロフィールを細かく指定でき、それに即した会話ができることだ。家族構成や友人関係、性格や目標としていることなど、記憶させられる項目は多岐にわたる。これらはユーザーが自発的に指定できるだけでなく、自然な会話の中でそれとなく聞き取られ、その後の会話に反映されていく。 Replikaの運営元であるLukaは、当初はバーチャルアシスタントとしてのチャットボットを開発していた。だが創業者のEugenia Kuydaは、親友を事故で失ったことをきっかけに、実在の人物をチャットボットとして再現するアイデアを考え出す。そのアイデアを形にしたのがReplikaなので、人格を持った存在のようなやり取りができることにも納得がいく。 実際の人間と同じように、または人間以上にユーザーのことをよく知ったうえでの会話が可能とあって、2023年にはアクティブユーザーが200万人、有料ユーザーが50万人に達したとされる。2023年6月には性的なロールプレイを想定したスピンオフ「Blush」も立ち上がり、単なる暇つぶしの以上の需要があることがうかがえる。
AIが広げた、まだ見ぬ「恋愛」の可能性
人間とAIの間の自然な会話など数年前にはありえなかったが、今ではそんなコミュニケーションで心を満たす人たちがいる。顔写真1枚で恋愛相手を探そうとしたり、ボットを介して数千人と会話したりすることも、数年後には一般化しているのかもしれない。 であれば、これからの恋愛とは、無数の人とボットで語り尽くして最善の相手を見つける人がいる一方、AIの恋人を自分好みに育てて満足する人もいるといったように、二極化していくのだろうか。きっとその世界では「普通の恋愛」も現在以上に多様化し、さまざまな幸せの形が生まれていることだろう。
文:福田ミホ