朝ドラ『虎に翼』日本は原爆投下直後に「国際法違反」と抗議していた? 原爆裁判の原告側が突き付けた“切り札”とは?
NHK朝の連続テレビ小説『虎に翼』は、第23週「始めは処女の如く、後は脱兎の如し?」が放送中。寅子(演:伊藤沙莉)らが担当する「原爆裁判」では、雲野の遺志を継いだ岩居(演:趙珉和)や山田よね(演:土居志央梨)、轟太一(演:戸塚純貴)ら原告代理人側と被告である日本国が真っ向から対立し、国際法学者の見解を盾に膠着状態を続けている。今回は、史実の裁判において原告側が主張した「日本国は既に原爆投下が国際法違反であると認識していただろう」という主張について解説する。 ■裁判の争点となった「国際法の違反」は何を根拠にしているか 原爆裁判では、大きく分けて2つの事柄が争点となっていた。ひとつは「アメリカによる広島・長崎への原爆投下が国際法に違反するか否か」、もうひとつは「原告らが国に対して賠償請求する権利があるか否か」である。 ここでいう国際法とは、戦時国際法すなわち「戦争状態においても遵守されるべき法」である。戦時のみに適用されるというわけではなく、宣戦布告のない軍事衝突もこれに該当する。 1899年と1907年に締結された「ハーグ条約」は、戦時国際法を成文化した条約・宣言で構成されているが、そのうちの「ハーグ陸戦条約」は、1899年にオランダ・ハーグで開かれた第1回万国平和会議において採択された「陸戦ノ法規慣例ニ関スル条約」と附属書の「陸戦ノ法規慣例ニ関スル規則」を指す。これは改定・拡張されながら現代まで続いている。 日本は明治44年(1911)に批准し、明治45年(1912)1月13日に「陸戰ノ法規慣例ニ關スル條約」として交付した。 原爆裁判で原告代理人が「国際法に違反する」と主張したのは、国際法において「不必要な苦痛を与える兵器、投射物、その他の物質を使用すること」が禁じられていることや「防守されていない都市、集落、住宅または建物は、いかなる手段によってもこれを攻撃または砲撃することはできない」などと定められているからだ。 そして「原爆投下は人類に対する塵殺行為であって、これを敵国戦闘力の破壊を目的とする戦闘行為と認めることができないことは文明国民の争い得ないことである」とした。 ■帝国政府からアメリカに送られた「抗議文」とは 裁判は難航を極めたが、原告の主張を真っ向から否定する被告側(国)に対して、原告側代理人はとある事実を突きつけた。「国は原爆投下直後にアメリカに抗議文を送っていたではないか」というのである。 昭和20年(1945)8月10日、大日本帝国政府は永世中立国であるスイス政府を通じて、アメリカに抗議文を送った。「交戦者、非交戦者の別なくまた男女老幼を問はず総て爆風及び輻射熱により無差別に殺傷せられ(中略)不必要の苦痛を与うべき兵器、投射物其の他の物質を使用すべからざることは戦時国際法の根本原則にして、それぞれ陸戦の法規慣例に関する条約附属書、陸戦の法規慣例に関する規則第22条、及び第23条(ホ)号に明定せらるるところなり(中略)本件爆弾を使用するは人類文化に対する罪悪なり」などと記した公文によって、即時の原爆使用中止を厳重に要求したのである。 この事実に基づくならば、国としても原爆投下は国際法で禁止されているような「非人道的な兵器による無差別な攻撃」と認識していたのだろう、と主張したのだ。その上で「今被告が原爆投下について国際法に違反するかどうかは断定し難いというなら、当時の日本政府は国際法を正しく認識していなかったというのか。原告らはむしろ、あの短期間で抗議文を送ったことを“世紀の大抗議”であると日本国民として名誉に感じているというのに」と述べた。 原爆裁判の判決はご存知の通り、原爆投下が国際法に違反することを認めながらも原告側の損害賠償請求等の訴えを棄却している。判決においてこの「大日本帝国政府の世紀の大抗議」については以下のように判断された。「抗議文の内容は原告等の主張される通りである。しかし、これは当時交戦国として新型爆弾の使用が国際法の原則及び人道の根本原則に反するものであることを主張したのであって、交戦国という立場を離れて客観的にみるならば、必ずしもそう断定することはできない」と。国側の主張が認められた形だ。 原爆投下は国際法違反か否か、原告らの損害賠償請求権は認められるのか……それだけではなく、原爆による被害に苦しみ続ける人々がどこに救済を求めればいいのか……。『虎に翼』では、被爆者と国、それぞれの立場とイデオロギーの違いによる対立を正面から描いてゆく。 <参考> ■日本反核法律家協会「原爆裁判・下田事件アーカイブ」 「昭和三〇年(ワ)第二九一四号、昭和三二年(ワ)第四一七七号損害賠償請求併合訴訟事件」
歴史人編集部