発達障害が治る子と治らない子、その違いはどこに…?発達障害にまつわる「嘘と本当」
生き生きと働くように
B君とご両親はこちらの勧めもあり、中学校は躊躇なく特殊学級への進学を選んだ。知的に高くそこそこの学力もある彼はクラスのリーダーとなり、連続して特殊学級の級長を任せられるようになった。中学校1年生の2学期になると、彼は学校での自分の様子を自慢げに語るようになり、すっかり自信を取り戻したことが窺えた。 彼を、知的な遅れのない自閉症やアスペルガー症候群の子どもとその親の会である「アスペ・エルデの会」に誘ったのはこのころである。この会は、親子ともに気に入ったようでB君はせっせと熱心に通うようになった。 B君は高校進学に当たって養護学校の高等部を選んだ。学力的には通常高校のいわゆる底辺校や専門学校に進学ができないことはなかったが、親子ともに躊躇はなかったようである。彼が選択した養護学校高等部は職業訓練を徹底的に行うことで有名なところであった。 この作業訓練は、作業のときの受け答えや、作業態度まで含む徹底的な指導である。高校2年生になったころからB君は学校の厳しい教育が身についてきたようで、私との受け答えにおいても、それまでの聞いているのかいないのか分からないといった風情ではなくなり、しっかりと目を見て返事をするようになった。 アスペ・エルデの会では高校生以上の青年で「サポーターズクラブ」という、会の運営自体に関わる別働隊を作っている。B君はここにも熱心に顔を出し、高校生の仲間同士であちらこちらに遊びに行ったり、ボランティアに出かけたりするようになった。筆者は当時、ある大学で教育学部の教官をしており、その地域のアスペの会を主宰していたが、サポーターズクラブの仲間を誘って、遠方からボランティアとしてしばしばその手伝いに駆けつけてくれた。 B君は養護学校高等部卒業後、ある大企業に勤めるようになった。今日、障害者雇用促進法という法律があり、あるレベル以上の企業は従業員の1.8パーセントにあたる障害者を雇用しないと罰金が科せられるのである。現在の実績は1.5パーセントであるため、まだ障害者を雇用していない会社が多数ある。つまりきちんと仕事ができる障害者は、企業の側も欲しいのである。 またB君の通う養護学校高等部では徹底した職業訓練があり、現場実習という職場での就労体験が重ねられ、また企業側と教師との話し合いもあり、就労後にも教師が職場に訪れるようになっている。 B君はこうして就労を果たし、生き生きと働くようになった。さすがに大企業で、初任給も高く、すぐにボーナスも出るなど待遇も良かった。B君は残業もこなし、また自動車の免許も取得し、自分の給料で買った車で自宅から通勤を始めた。アスペの会、サポーターズクラブの友人との交流は続いていて、休みの日はしばしば一緒に出かけている。彼は就職してからもサポーターズクラブの友人を誘って、アスペの会にボランティアで手伝いによく来てくれていた。 ある日のこと、比較的遅い時間まで彼がのんびりとしているので、「今日はゆっくりしているけどいいの」と筆者が聞くと、「今までは学生だったから、鈍行の電車で来ていたけど、今は自分の給料で新幹線で帰れるから大丈夫」と答えた。筆者はとても感動した。 ただし問題がまったくないわけではない。数年前、キャッチセールスの被害を受けたのである。新しい友達ができたというので何かと思ったら、キャッチセールスのお姉さんであった。被害額は100万円以上にのぼる。人の悪意に関しては非常に脆弱な人たちである。今後の社会生活の上で、B君が学ばなくてはならないことはまだまだ多い。