フリーアナウンサー・神田愛花『私の秘密の願いごと』
私には、大切にしているぬいぐるみが3体ある。座らせた状態で高さ23cmの薄茶色のクマ。同じく高さ30cmの焦げ茶色のナマケモノ。立った状態で高さ33cmある黄色いアヒルだ。毎晩枕元に整列させて就寝し、毎朝起きてすぐ服を着せている。どのぬいぐるみも平等に扱うために、名前は付けていない。近くにいる時は「オマエタチ」とか「ソイツタチ」と呼び、離れた場所で彼らの話をする時は「アイツタチ」と呼んでいる。もう5年近い付き合いだ。 【画像】個性あふれる神田愛花さんの直筆イラスト(1回~55回)はこちら 最初に我が家に来たのはナマケモノ。もともとゴルフウェアブランドで販売されていた、ドライバーのヘッドカバーだ。その愛くるしさに夫が一目惚れして購入。だが、使い始めて2回目のラウンド後、頭部をグーッと押し込みながらキャディバッグのファスナーを閉めていたら、ファスナーに後頭部の毛が挟まった。すると夫が「もうコイツを使うのやめる! 可哀想過ぎる!」と言って、ぬいぐるみとして家に入ることになった。 次に加わったのはクマ。ある旅行サイトのキャラクターだ。PRイベントにお呼ばれした時に頂戴した。胸部には黄色い5つ星の刺繍が施されている。すでにイメージづけされているぬいぐるみは自分の中での成長過程が描きにくいので、実はあまり得意ではなかった。だが、ナマケモノに会わせてみると、ナマケモノが「おう、友よ!」と喜んでいるように見えた。それならば、と迎え入れた。 最後はアヒル。北欧発の雑貨屋さんでイースターの時期に販売されていた。お腹がポッコリ出ていて、首が長く脚が細い。立つのも難しそうな体型なのに、乾電池を入れると見事に二足歩行をした。ロボットコンテストの司会を何年も務めた経験を持つ私は、「たった1000円前後の商品でこのバランスを実現させるなんて!」と感動し、購入。半年くらい前、経年劣化のせいか右足首がポッキリ折れ、今はナマケモノとクマに寄りかかりながら過ごしている。 当初は時々頭を撫でたり、視界に入った時に存在を確認したりする程度だった。だが、仕事で疲れて帰った時や夫と喧嘩して一人で寝る夜など、彼らの顔を見ると肩の力が抜けるように。次第に表情があるように見えてきて、「おぉ、今日も楽しそうだね!」と話しかけるようになった。そしてある日、夫がTシャツを着せ始めたのだ。「もう家族だから、服を着たほうがいい」と。(もしかして、私よりもアイツタチのことを大切に思ってる!?)と、とても嬉しくなり、それ以来、私たちにとって本当のペットのようなかけがえのない存在になった。 ◆オマエタチ、動いてもいいんだよ? 今では、不慣れな泊まりロケに行く時に、必ずどれか1体を帯同している。香港で週末弾丸旅のロケがあった時も、こっそりナマケモノを連れて行った。仕事で海外は16年ぶり、連日早起きのスケジュール。間違いなく気が張って眠れなくなるからだ。ホテルに到着し、「狭い中ごめんね」と言いながらスーツケースの中のアイツに触れた瞬間、指先から柔軟剤を打たれたかのように、フワ~ッとした何かが、ビヨビヨビヨ~と全身に浸透していった。そしていつも通り枕元に置いたらしっかり眠れ、ロケは最後まで楽しく盛り上がった。 帰国すると、香港の湿気で少し変なニオイになっていた。(オマエもオマエで大変だったんだなぁ)と慮(おもんぱか)り、翌朝ベランダで日向ぼっこをさせた。あっという間にカラッとしたアイツになり、お互い日常に戻った。 今の私の願いは、映画『ted』のように、ある日突然、アイツタチに命が宿り、喋ったり動いたりする日がくることだ。そのために何度も、「急に動き出してもいいんだよ」と話しかけている。横で聞いている夫は、「動き出したら大変だよ。ものすごくエサを食べるだろうし、そこらじゅうにフンをするよ」と言ってくる。またある時、「ねぇオマエタチ。こんなに大切にしているんだから、そろそろ喋ってもいい頃なんじゃないの?」と話しかけていると、夫が「そういう見返りを求めない人のところに、奇跡が起こるんだよ」と言う。じゃあ、もう口には出さない。でも(いつか、何も食べずにフンもしない、ただ喋って動くだけの感じで命が宿りますように!)と、強く心の中で願いながら、オマエタチの目をグッと見ている。 かんだ・あいか/1980年、神奈川県出身。学習院大学理学部数学科を卒業後、2003年、NHKにアナウンサーとして入局。2012年にNHKを退職し、フリーアナウンサーに。以降、バラエティ番組を中心に活躍し、現在、昼の帯番組『ぽかぽか』(フジテレビ系)にメインMCとしてレギュラー出演中 『FRIDAY』2024年7月5・12日号より イラスト・文:神田愛花
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