福本清三が残したメッセージ〝誰かが見ていてくれると信じ一生懸命やる〟 初の主演作「太秦ライムライト」で快挙も鍛錬を続ける姿勢
【福本清三伝 無心―ある斬られ役の生涯】 福本清三の初の主演作「太秦ライムライト」は国内外で13の賞を受賞した。福本はカナダのファンタジア映画祭で主演男優賞を受賞。史上最年長での快挙に盛り上がる中、筆者がお祝いの電話をしたときはトレーニングに出ていて不在だった。受賞の日でも鍛錬を続ける姿勢が彼を福本清三たらしめたのだ。 主演作のヒット後も、福本は映画に斬られ役で出演し続けた。公開翌年に肺がんが見つかったが治療もうまくいき、仕事も続けていたので、ほとんどの人が気づかないほどだ。 最後の撮影は2020年8月末。テレビ時代劇で堂々たる道場主を演じた。控室に戻る途中、時折座っては長年親しんだ撮影所を愛しむように眺めていた。大事をとって撮影所からはタクシーで帰宅した。妻の雅子さんによると、その日、福本は家の玄関を開けるなり、「わしゃ、スターじゃ!」と言ったという。タクシーで送迎されるなんてスターみたいだと冗談めかし、体調が悪いのを隠そうとしたのか。雅子さんには自宅の廊下が花道に見えた。約4カ月後、福本は旅立った。 福本は映画史に輝く名優であり、日本一の斬られ役の〝先生〟だが、それだけにとどまらない。誇りを持って物事に取り組み誠実に道を歩んだ人生の〝先生〟でもあった。これからも多くの人がその姿を励みとして前に進んでいくだろう。今回の伝記写真集が、福本の人生を振り返り、映画の未来に思いをはせるよすがになることを願う。 この連載を、福本のモットーである「どこかで誰かが見ていてくれる」について語った言葉で締めくくることにする。 「『太秦ライムライト』に何を感じてほしいですか」との問いへの答えだ。福本が残してくれたメッセージのようだ。 「一生懸命やっていれば、神様が見てくれているということやね。大きな望みをかなえるためじゃなしに、〝これをやったら、これが来る〟とかそういうことを期待せずに。自分が何をやるかいうたら一生懸命しかないなと僕は思います。誰が見てるかわかんないですからね。そりゃ、見てくれへんことのほうが多いんですよ。けど、その思いを捨ててしまうとあかん。誰か絶対見ていてくれるということを信じてやれば何かある。それを一人でもわかってもらえれば、ありがたいなと思います」 =おわり ■大野裕之(おおの・ひろゆき) 脚本家、演出家。1974年、大阪府生まれ。京都大学在学中に劇団「とっても便利」を旗揚げ。日本チャップリン協会会長。脚本・プロデュースを担当した映画に「太秦ライムライト」(第18回ファンタジア国際映画祭最優秀作品賞)。主な著書に「ディズニーとチャップリン エンタメビジネスを生んだ巨人」(光文社新書)など。
伝記写真集「福本清三 無心――ある斬られ役の生涯」(とっても便利出版部、税込み3300円)は、全国書店で販売中。