でんぱ組.inc古川未鈴「いじめてきた人を見返せるんじゃないか」からスタートした「アイドルになりたい」
秋葉原が自分の居場所だった
「秋葉原ディアステージの扉をたたいた時に、“ここでなら私も主役になれるかもしれない”と感じた。でんぱ組.incのプロデューサーのもふくちゃん(福嶋麻衣子)に、“アイドルグループを作りたい”と言って、誕生したのが『でんぱ組.inc』でした。 当時はよく“アイドルになれなかったら死ぬ”って公言していたんですが……。アイドル以外は興味がなかった。一緒にグループをやっていたねむ(夢眠ねむ・元メンバー)や、りさちゃん(相沢梨紗・メンバー)からも心配されていました」 学生時代はいじめも経験したことがあるという未鈴さんにとって、心が安らぐ場所が秋葉原だったという。 「アイドルのオーディションに受からないんだったら、自分が主人公になれる場所を作るしかない。それが私にとって秋葉原という場所でした。ディアステージで働くということは、アイドルを目指すことでもある。 学生時代は、人とうまく話せなかったけれど、ディアステージでキャストとして接客をしているときは、楽しく会話ができました。自分でも成長していく過程が面白かったし、なによりもお客さんに喜んでもらえるのが嬉しかった。秋葉原に来て、本名ではなく“古川未鈴”として活動するようになって、別の人物になれるって気づきました」
「自分が輝けるのはグループだと感じていた」
どうしてそこまでアイドルという存在になりたいと思ったのだろうか。 「モーニング娘。さんのようにグループで歌って踊るグループがかっこいいなって感じていました。だから1人でアイドル活動をするというイメージがなかった。当時(’09年ごろ)の秋葉原はまだグループ活動をしているアイドルが主流ではなかったんですが、なんとなく自分が輝けるのはグループだと感じていたので、 “グループがやりたい”って言い続けていました」 でんぱ組.incのライブの定番曲として外せないのが『Future Diver』(2011年)だ。この楽曲は、トイズファクトリーとプロデューサーのもふくちゃんが共同で設立したレーベル『MEME TOKYO』からリリースされた。 「当時は、アイドル活動だけでは生活ができなかったので、ディアステージでのバイトも続けていました。東日本大震災が起きた年に、秋葉原ディアステージにレコード会社の人がお忍びで来てくれて。そのとき、接客をしたのが私だったんです。“でんぱ組.incっていうアイドルをやっているので聞いてください”ってプレゼンしました。 その後に、“メジャーデビューします。編曲はヒャダインさん(前山田健一)です”って聞いて、嬉しかった。それまでも売れるつもりで頑張っていたけれど、実際に売れるってどういうことだろうみたいに漠然としていた。Future Diverがリリースされてから10年以上経つのに、“夢で終わらんよ”っていう歌詞に、救われているっていう声を聞きます。私もこの曲がリリースされた時は、一つの転機だったなって感じます」 一つ一つの出来事を思い出しながら、丁寧に語ってくれた未鈴さん。その表情は、彼女が憧れたアイドルのようにキラキラと輝いていた。 (取材・文)池守りぜね ふるかわ・みりん 香川県高松市出身。でんぱ組.incのメンバー。キャッチフレーズは「歌って踊れるゲーマーアイドル」。でんぱ組.incの活動以外にも、ゲーム関連の雑誌での執筆やゲームの動画配信なども行っている。2019年、漫画家の麻生周一と結婚を発表。2021年第一子となる男児を出産。 池守りぜね
池守りぜね