リチャードの「移籍志願」はわがままか 実は「移籍直訴は珍しくない」という内情
ソフトバンクのOBはこう指摘する。 「ファームだと力強いスイングを見せるが、1軍に上がると当てにいくような『よそ行きの打撃』になる。気持ちは分かるんですよ。1、2軍で当落線上の選手は1本の安打が欲しい。本塁打が打てても、確実性が低い選手は首脳陣が使いづらいですから。1軍と2軍で打撃が変わってしまうのは、長距離砲の選手が抱える悩みですね。ここの殻を破れないとレギュラーをつかめない」 チームが4年ぶりのV奪回を飾った今季は川村友斗、正木智也、緒方理貢ら若い力が台頭した。だが、リチャードは彼らとは違う魅力がある。きっかけをつかめば、1軍で30本塁打以上打つ可能性は十分にある。チャンスを求めて移籍希望を口にするのは、わがままなのだろうか。 ■移籍志願の理由は様々 他球団の編成担当は「契約交渉の席で、選手が他球団に移籍志願を直訴することは決して珍しくないです」と内情を明かす。 「1軍で自分の守るポジションが埋まっているとか、力を発揮できていないので環境を変えたいなど、理由は様々です。彼らの気持ちを否定するつもりはありません。サラリーマンも違う部署のほうが自分の力を発揮できると希望する場合があるし、転職するケースがある。こちらはチームに必要な戦力として説得する一方で、その選手の今後の野球人生を考えた時に、他球団のほうが輝けると判断したらトレード移籍を模索する時があります」 では、リチャードの移籍志願はかなうのか。 「判断が難しいですね。ソフトバンクは戦力として当然考えるでしょう。でも、他球団に移籍したいという気持ちを抱えたままプレーしても良い結果が出ないし、チームに良い影響を与えない。今後の交渉でリチャードがチームを出たい意思が固いようだったら、トレードや現役ドラフトで移籍という可能性が出てくるかもしれません」
■過去にもいた移籍志願の長距離砲 他球団への移籍志願が話題になった長距離砲は、過去にもいた。1998年に横浜(現DeNA)のドラフト1位指名を受けて入団した古木克明は左のスラッガーとして期待され、高卒5年目の2003年に自己最多の22本塁打をマーク。翌04年は打率.290と確実性が大幅に上がった。だが、05年は新監督のもとで外野の守備力を重視するチーム方針もあって出場機会が減少、2本塁打に終わると、この年のオフに球団へトレード志願したことが報じられた。その年の移籍はなかったが、07年オフにトレードでオリックスに移籍。だが。オリックスでも出場機会は少なく、09年オフに戦力外通告を受けて退団した。 「中日で大ブレークした細川成也、今季日本ハムで覚醒した水谷瞬のように新天地で素質を開花させた選手がフォーカスされますが、トレードや現役ドラフトで移籍しても活躍できずにこの世界から消えていく選手のほうがはるかに多い。隣の芝生は青く見えるではないですけど、リチャードは他球団に移籍が実現しても険しい道のりが待ち受けている。その覚悟は持つべきだと思います」(前出のスポーツ紙デスク) リチャードは来年もソフトバンクでプレーするか、それとも――。 (今川秀悟)
今川秀悟