「石破カラー」発揮は至難の業 少数与党と党内亀裂…「党高政低」政権に
決選投票にもつれた首相指名選挙で薄氷の信任を得た石破茂首相には「少数与党」として綱渡りの政権運営が待っている。自民党内の結束はおぼつかない状態で、「政治とカネ」問題などで野党から攻勢をかけられるのは必至。意思決定は自民1強時代の官邸主導は難しく、野党交渉を担う自民中枢に委ねる「党高政低」に様変わりする。「石破カラー」を発揮するのも至難の業だ。 【写真】任命式と認証式を終え、記念写真に納まる石破茂首相と閣僚ら 「石破茂君を内閣総理大臣に指名することに決まりました」。11日の衆院本会議。深々とこうべを垂れた首相の表情は硬かった。 野党の足並みの乱れに救われ、手にした2度目の宰相の座。身内の造反や棄権もなく、「政権の最大のピンチは乗り切った」(首相周辺)。実態は、渋々「石破茂」と書いた議員が少なくないとみられる。「下野したくないだけ」。自民中堅は言い放った。 自公政権の継続を許した立憲民主党の野田佳彦代表は次の主戦場を政治改革の議論に見据え、言った。「われわれの案を出して自民、公明両党にのむかどうかを迫りたい」 ¥ ¥ 首相選出後、森山裕幹事長はNHKのインタビューに淡々と答えた。「国会運営はしっかり議論し、結論を出していくことに尽きる」 森山政権-。最近、永田町でささやかれている。政府、与党だけで予算案や法案を通せず、命運は野党交渉の成否にかかる。党内外の人脈が薄い首相は、歴代最長の国会対策委員長を務め調整力にたけた森山氏ら党幹部に依存する。 「年収の壁」見直しで与党を揺さぶる国民民主党とは、森山氏や松山政司参院幹事長が水面下で調整。「譲歩を引き出せるのは森山氏ぐらい」(自民関係者)。今は「みんなで首相を支える」(党三役経験者)と「石破降ろし」の目立った動きはないが、野党と妥協すればするほど首相への牙を研ぐことになる。 首相と恩讐(おんしゅう)が深い麻生太郎最高顧問は、国民側との強固なパイプを生かして積極的に動く気配は乏しい。「首相が頭を下げない限り、高みの見物」と麻生氏側近もまた模様眺めだ。 ¥ ¥ 「地方創生2・0を起動させることは内閣の最重要課題の一つだ」。首相は8日、地方創生推進のために新たな閣僚会議を立ち上げた。官邸発で持論の自衛官の処遇改善や防災省新設に向けても着手はしたが、「できるのはそれぐらい」(自民関係者)と冷笑が漏れる。 「年収の壁」見直しや政治資金規正法の再改正などで野党側と折り合い、内閣不信任決議案の提出は回避し、来年度当初予算成立の道筋を整える-の3点セットが当面首相に課された至上命令だ。「そのためにやりたい政策は後回しにするしかない」と首相に近い重鎮は解説する。 別の首相側近は展望する。年内で政治改革に一定決着をつけ、来年の通常国会は石破カラーを前面に出した政策でアクセルを踏む-。描いた青写真通りに政権が歩めるのか、誰も読めない。 (東京支社取材班)